二次利用について
2023年10月25日
スタートアップ投資拡大への制度改革
大崎貞和 野村総合研究所 主席研究員
2022年11月に策定された「スタートアップ育成5か年計画」では、第二の創業ブームを実現し、スタートアップへの投資を大幅に拡大することで時価総額1千億円超の未上場企業であるユニコーンを100社生み出すという目標が掲げられている。そのための施策の一つの柱であるスタートアップへの資金供給強化では、特定投資家向け銘柄制度の整備や未上場株式のPTS取引の解禁などが進められてきた。こうした制度が所期の効果を発揮するかどうかは、証券会社がそれらを活用するために個人顧客の特定投資家への移行を積極的に働きかけるかどうかによって左右されるだろう。
カテゴリー 金融資本市場
2023年10月11日
地政学リスクと金融市場
井上哲也 野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニアチーフリサーチャー
地政学リスクは、金融市場に西側諸国による金融制裁、エネルギーや食糧の供給不安定化、戦略物資の確保の面で各々影響を与えている。第一の点では、対米非友好国による米ドル以外の決済手段の使用と長い目で見た国際通貨の地位への影響が注目される。第二の点では、国際商品価格を参照する金融商品の市場拡大の一方、ボラティリティ上昇による実物価格へのフィードバックにも注意すべきである。最後の三点目では、貿易金融や資産担保取引による供給源の囲い込みが金融ビジネスを拡大する一方、サプライチェーンファイナンスの活性化が気候変動対応にも役割を発揮することが展望される。
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2023年9月27日
ローン・コベナンツ開示の意義と今後の課題について—社債市場の活性化の観点から
西村淑子 日本証券業協会 自主規制本部 公社債・金融商品部長
去る6月、「重要な契約」の有価証券報告書や臨時報告書(有価証券報告書等)における開示の充実を図るべく、「企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)」等の改正(案)が公表された。 本稿では「重要な契約」のうち、「ローン契約等に付される財務上の特約(コベナンツ)」に関し、制度改正に至るまでの経緯を振り返ったうえで、特に社債市場との関連での開示の意義、及び今後の課題について私見を述べることとしたい。
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2023年9月13日
資産運用業改革に大切な視点
澤上篤人 さわかみホールディングス 代表取締役
資産運用立国ということで金融界は沸き上がっているが、どこまでその準備態勢と覚悟があるのか、はなはだ疑問。資産運用ビジネスは10年20年30年という時間軸で運用責任を負うもの。金融業界の販売して儲けて終わりの感覚で、資産運用ビジネスを云々するのは無責任に過ぎるし、機関投資家も一般生活者の資産形成に資する運用商品などもっていない。一般生活者が安心し信頼して資産形成を託せる投信会社を増やし、各々の実績をもとに個人が信頼する投信会社に預貯金マネーを託すという流れを作ることが肝要。それには、本格的な長期投資運用への挑戦者を輩出させることと、投信の顧客口座管理全般を一括して引き受けるプラットホーム設立が先決。
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2023年8月30日
資産運用立国実現に向けた運用会社の課題
堀江貞之 東洋大学国際学部・非常勤講師 堀江リサーチ&アドバイザリー代表取締役
資産運用立国に向けて、運用会社には2つの大きな課題がある。第一に「顧客最優先」を自分事として実践すること。第二は運用能力の強化である。顧客最優先をかけ声倒れに終わらせず実践するには、顧客最優先の企業文化を醸成することが不可欠である。そのためには、利害関係者の優先順位を明確化し顧客を最上位に置くこと、さらに利益相反管理規定を厳格化し、独立取締役が実施状況をモニタリングする必要がある。運用能力の強化には、近道はなく王道をゆくべきある。王道とは、長期視点から企業価値を評価し割安な優良企業に集中して投資する投資戦略を貫くことであり、運用能力強化に至る正道はここにある。
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2023年8月16日
構造的円安論を再考する
高島修 シティグループ証券 外国為替本部 チーフFXストラテジスト
昨年、対米ドルで150円を超えた円安の背景には日本国内外での構造変化がある。日本の高齢化、生産性や輸出競争力の低下、グローバル化などがそれであり、貿易収支を主体に国際収支を悪化させやすくしている。資本勘定においても、テクノロジーの進化に伴って、本邦投資家のホーム・バイアスが低下するなどして、海外投資が増えやすくなっている。実質実効円相場が50年ぶりの低水準に下落する中、「悪い円安」論なども出てきているが、筆者はこの間の円安を長期的には自然なことだと捉えている。とは言え、購買力平価などで見て円安にやや行き過ぎ感があることも事実で、数年単位で考えれば、ドル円は120円を下回るような調整となってもおかしくないように思われる。今回のドル円に限った話ではないが、構造論と循環的な相場動向は切り離して考える必要がある。
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2023年8月2日
監査調書の「差し込み」事案から見えてくるもの
池田唯一 大和総研 常務理事
2023年に入り、金融庁は、企業の会計監査を行う2つの中小監査法人に対して公認会計士法上の行政処分を行ったが、そこでは、両監査法人が、当局からの検査を受けるに際して、事後的に作成した監査調書を追加的に監査ファイルに差し込んで検査官に提出していたことが明らかになった。監査調書は、実効的な監査を成り立たせるための重要な基盤であり、監査手続を進める中で監査調書を適切に作成していくことには、単に文書の作成・管理といったことを超えた、極めて重要な意味がある。これらの事案を受けて、日本公認会計士協会では、会員に対して、監査調書の作成・保存に関する体制の整備状況の確認やその適切な運用状況の確保を求める通知文の発出などを行っているが、問題の根絶に向けては、なお多くの取組み課題が残されている。
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2023年7月19日
のれんの会計処理 日本における戦略的議論の必要性
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ
IASB(国際会計基準審議会)は2022年11月の理事会において、企業買収(M&A)における買収価額と買収対象企業の純資産との差額である「のれん」の事後測定について、規則的償却をせずに減損処理のみとする現行の処理方法を維持することを決定した。のれんについて、日本基準では償却をするがIFRS会計基準(国際会計基準)では償却は行わないので、買収後利益に大きな見かけ上の違いがあり、どちらが適切なのかの議論が続いていた。日本としては、国際的な会計が日本の会計に合わせて修正することを期待していたが、当面の間それが実現しないことが確定した。この点について、現在ボールは日本側に投げ返されていると認識すべきであり、早急に戦略的な議論を開始する必要性がある。
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2023年7月5日
生物多様性を投資機会として捉える
中空麻奈 BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
生物多様性という言葉自体は多くの読者がご存知であろう。すでに聞き慣れた言葉になりつつある。2023年のESG投資の代表的な分野であることは確実でもある。しかし、その一方で、この生物多様性という漠としたものにどう向き合うかははっきりしない。最近の取り組みを紹介しながら、生物多様性の投資機会を考えてみよう。
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2023年6月28日
シリコンバレーバンク破綻が照らすバーゼルの彼方
野崎浩成 東洋大学 教授
CFA Institute(米国アナリスト協会)で財務報告部門を率いるサンディ・ピーターズ氏が「The SVB Collapse: FASB Should Eliminate “Hide-Till-Maturity” Accounting」というコラムを書いている。満期保有目的有価証券(Held-To-Maturity Securities = HTM Securities)を揶揄し「満期まで隠す」とした機知に富んだ表現である。この期に及んでは、Held-Till-Muddle(混乱)やHeld-Till-Malfunction(故障)などを充ててもよいかもしれない。
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