二次利用について
2024年10月16日
損害保険市場の健全な競争環境を実現するには
植村信保 福岡大学商学部 教授
企業向け保険料の事前調整問題や旧ビッグモーターによる保険金不正請求事件は単なるコンプライアンス上の問題ではなく、損害保険会社が厳しい規制下に置かれていた時代に形成されたコンダクト(企業行動)を、30年経っても変えられなかったことが問題の本質と言える。「いびつな取引慣行」に代表される保険市場の競争環境をより健全なものに改めるには、発覚した個々の問題の対処療法だけでは不十分であり、企業内代理店や大型の乗合・兼業代理店のあり方を見直し、顧客の意識改革を促すような抜本的な取り組みが必要である。6月の有識者会議報告書を受けた金融庁の対応や、9月に始まった金融審WGにおける議論に注目したい。
カテゴリー 金融資本市場
2024年10月2日
東証PBR改革が本質的に意味すべきところ
野崎浩成 東洋大学 教授
東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」からはじまるPBR改革については、発表当初から疑問を感じてきた。これまで株価バリュエーションに理解も認識もない経営者の意識を若干替えたという点は評価するものの、正直なところ適切に企業経営者にその本質が伝わっているかというのが個人的感想である。(どこまでが中国株式市場からのキャピタルフライトの影響で、どこまでがこの改革の効果かは釈然としないものの)日本株のパフォーマンスが顕著に好調だったこともあり、国内外機関投資家による肯定的な受け止めやメディア等による高い評価も得られているが、PBR改革については適切な理解が不可欠である。
カテゴリー 金融資本市場
2024年9月25日
三菱UFJ事案の本質(下)―投資家・市場への眼差しを欠く総合金融サービス論は危険―
森本学 日本証券経済研究所 理事長
本年6月の三菱UFJ事案の処分理由は、概ね、(1)顧客情報の不適切な共有、(2)銀行に許されない証券業務の実行、の二つである。(下)で論ずる(2)は、本来は銀行・証券業務に跨る不適切行為なのであるが、この問題には様々な切り口・視点があり、処分理由ではその一部だけが表れているため、根本原因が見えづらくなっている。本稿では、本事案の行間、余白を読むことにより、その根本原因の輪郭を描くとともに、この問題の解決の方向性について私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2024年9月18日
IFRS会計基準の業績指標
~IFRS第18号の狙い~
鶯地隆継 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科 特任教授
国際会計基準審議会(IASB)は4月に新基準IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」を公表した。新基準では、これ迄定義されていなかった「営業利益」が定義され、統一的な表示が義務付けられ、「経営者が定義した業績指標(MPM)」というこれまでにはない新たな開示項目が加わった。IFRS第18号はIFRSを適用する全ての企業が対象となる基準で、企業業績そのものを表現する方法の変更なので、その影響は極めて大きく、将来的には日本の財務諸表のあり方にも大きく影響を及ぼす可能性がある。IFRS第18号はIASBの長年の議論の集大成であり、その狙いを正しく理解する必要がある。
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2024年9月4日
三菱UFJ事案の本質(上) —グローバルスタンダードによる顧客情報の管理を
森本学 日本証券経済研究所 理事長
 金融庁が本年6月に処分を行った三菱UFJ事案については、「規制違反自体は悪いものの、日本独特のファイアーウォール規制に抵触したものに過ぎない」という受け止め方が一部にある。しかし、本事案では、銀行グループ内で無規律に顧客情報が共有・流用されていた実態が明らかになり、それは著しくグローバルスタンダード及び市場の常識に反するものである。わが国銀行の顧客情報管理に関する考え方が、グローバルスタンダードからズレていることは、ファイアーウォール規制見直しの議論の過程でも顕在化しており、今回の事案の予兆ともなっていた。本稿では、そうした三菱UFJ事案の根本原因を明らかにするとともに、必要な対応策について私見を述べることにしたい。
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2024年8月21日
資産運用立国実現のための3つの新プリンシプルを読む—プリンシプルを用いた政策遂行はどこまで有効か
池田唯一 大和総研 専務理事
政府の「資産運用立国実現プラン」を受けて、3つのプリンシプル(①プロダクトガバナンスに関する原則、②ベンチャーキャピタル向けのプリンシプル、③アセットオーナー・プリンシプル)の策定が進んでいる。プリンシプルを策定して関係当事者の行動変容を促そうとする取組みは、これまでにもコーポレートガバナンス・コードや顧客本位の業務運営の原則などの例があるが、こうした手法にはこれまで必ずしも良い評価だけがあったわけでもない。また、仮に過去のプリンシプルに一定の成果が認められるのだとしても、それが各方面に拡張された場合に、本当にねらい通りの成果につながるのかとの問題もある。本稿では、3つの新プリンシプルの内容を概観するとともに、プリンシプルを用いた手法の効果と限界について考察する。
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2024年8月7日
米景気堅調と高金利・ドル高の下でのカネ余り
吉川雅幸 三井住友DSアセットマネジメント チーフマクロストラテジスト
世界経済については分析すべき点が多いが、今後1~2年を考える上で、①大幅利上げをうけた米景気の先行き、②米金利高・ドル高の下でグローバルな金融環境が緩和的である理由と見通し、に注目したい。米景気は利上げの影響で減速に向かうが、移民増や企業の資金ポジションが良好なことなどから、失速は避けられよう。また、グローバルな金融環境が緩和なことは、流動性が潤沢=一種のカネ余りであることを示唆している。当面米インフレが鈍化を継続し、米金利が低下し始めると米国に集まった資金が分散、米国以外の株式や新興国債券などにプラスに働く可能性がある。ただ、中期的には①軟着陸、②金融市場の不安定化、③インフレ再燃など、複数のケースが考えられる。
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2024年7月24日
日銀の正常化ペースは遅すぎないか
前田栄治 ちばぎん総合研究所 取締役社長
日銀は金融政策正常化の方向に舵を切った。そのペースについて様々な評価があるが、正常化ペースが遅くなりすぎるリスクの方が気になる。日銀は2%インフレ定着を目指し「意図的な」出遅れ戦略を採用しているようにみえるが、それが「意図しない」出遅れに変化する可能性があるためだ。リスクを高めうる要因として、①名目成長に比べた中長期金利の異例な低さ、②「早すぎる正常化」といった過去の批判も踏まえた日銀の正常化スタンスの慎重さ、などが挙げられる。それによって生じる可能性が高いとみられる主な歪みは過度な円安である。対応策としては、2%目標の柔軟化、為替による物価変動への意識を高めること、などが考えられる。
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2024年7月10日
金利がある世界において銀行が重視すべき課題
野崎浩成 東洋大学 教授
ここ1年強における銀行株価の良好なパフォーマンスは、金利上昇に伴う銀行業績改善への期待を反映したものと考えられる。それは運用サイドの収益性改善に比べ、負債サイドのコスト負担増分が限定的で、これは主に預金金利の市場金利感応度が低いことが背景にある。しかし、スマホバンキングに象徴される行動様式の変化は、預金者の行動が以前とは異なる様相をもたらすかもしれない。ネット専業銀行のコスト競争力を踏まえれば、リアルの銀行も預金金利を高めに設定する必要が出てくる可能性は容易に想像できるため、預金プライシング戦略などは極めて重要となる。しかし、金利引き上げ競争は収益性低下を招くと同時に、資産効率改善の機会を失うことも意味する。本稿では金利ある世界における「バランスシートマネジメント」の重要性を示す。
カテゴリー 金融資本市場
2024年6月26日
資産運用業の業界団体について—米国等の実情からの示唆
大久保良夫 日本投資者保護基金 理事長
投資信託協会と日本投資顧問業協会とが統合し新しい協会を設立することが公表された。国民の資産運用への関心が高まるなか、資産運用業の健全な発展を目指して、時代に即した民間業界団体のあり方を模索することは歓迎される。業界団体のあり方は規制や監督のフレームワークと直結している。わが国の資産運用業や業界団体のあり方を考えるうえで、米国等の業界団体の歴史や実情は参考になると思われるので、筆者の個人的な理解を述べてみたい。
カテゴリー 金融資本市場