2023年5月17日 | |
「中国の2023年の経済政策と当面の経済状況」 | |
田中修 拓殖大学大学院経済学研究科 客員教授 | |
3月の中国全国人民代表大会は、2023年のGDP実質成長率の目標を「5%前後」と設定した。このため、財政政策は「力を加え、効果を高め」、金融政策は「精確・有力」でなければならないとされ、この成長目標実現をサポートすることになった。しかし、他方で財政の持続可能性・債務リスクの防止とのバランスも意識されている。1-3月期の成長率は4.5%と年間目標を下回った。しかし、これは中国の四半期成長率が、先進国の前期比成長率ではなく、前年同期比成長率を採用しているため、実際の経済回復が十分に反映されなかった面がある。個別指標をみると経済の回復は明らかであり、年間目標の達成は可能であるが、24年以降の5%成長達成は不透明である。 | |
カテゴリー 金融政策 |
2023年4月26日 | |
「新NISAの何が問題なのか」 | |
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆 | |
岸田文雄内閣の目玉政策の1つとして、現行の少額投資非課税制度(NISA)が大幅拡充され、2024年から新NISAとしてスタートすることになった。しかし、筆者はこの優遇税制には賛成できない。国民の資産運用の選択に対して中立ではないうえに、細かな制度設計がまずく、選択できる商品の幅が狭かったり、特定の業者だけがメリットを享受できたりする仕組みになっているからだ。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2023年4月12日 | |
「PBR1倍割れの上場会社への対応について」 | |
池田唯一 株式会社大和総研 常務理事 | |
日本の上場会社の約半数がPBR(株価純資産倍率)1倍割れとなっている状況を受け、東京証券取引所(東証)は、継続的にPBRが1倍を割っている上場会社に対して、改善に向けた方針などの開示を強く要請していくとの方針を示している。日本企業のPBRが欧米企業のそれに比べて見劣りがするとされる中で、上場会社のPBRの改善を図りたいという東証の意図は分かるが、果たして今回の措置は有効にその機能を発揮するのか。PBRは、以前から言われてきたROE(自己資本利益率)とは異なり、上場会社が自助努力で直接、コントロールできる指標ではない。また、一口にPBR1倍割れと言っても、そこには業種全体の置かれた状況や規制環境など様々な要因が絡み合っている。さらに、PBRは一定の会計ルールに従って計算された純資産額から導出される数字であり、1倍という水準に絶対的な意味を持たせることには慎重な判断が求められる。これらを踏まえ、今回の措置の有効性について検討を加える。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2023年3月29日 | |
「今日の証券市場の論点―3.IPO制度」(下) | |
森本学 日本証券業協会 副会長 | |
(上)では、我が国のIPO制度が、過去の様々な出来事や指摘を受けて変遷してきたことを振り返った。(下)では、今回のIPO制度を巡る議論・検討のどこが、従来の繰り返しでは無い新しい点なのかを論じた上で、今後のIPO市場のあるべき姿について私見を述べることとしたい。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2023年3月22日 | |
「シリコンバレー銀から学ぶこと」 | |
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆 | |
米欧で銀行の経営危機が相次いで表面化し、発端となった米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻は、話題としては後景に退きつつあるが、米国のスタートアップエコシステムを支えてきたSVBのビジネスモデルに大きな問題があったわけではない。破綻の要因を探ると、過去3年、金融環境が緩和から引き締めへ急激に転換するなかで、スタートアップの資金調達環境が大きく変わり、銀行のALM(資産・負債の総合管理)上の判断ミスを招いていたことがわかる。経営者保証に頼らない融資への模索が続く日本の銀行も、SVBの失敗からだけではなく、ユニークなビジネスモデルから学べることは多いのではないだろうか。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2023年3月8日 | |
「今日の証券市場の論点―3.IPO制度」(上) | |
森本学 日本証券業協会 副会長 | |
一昨年夏、政府はその成長戦略において「公開価格の設定が低すぎるため、スタートアップの資金調達が不十分になっている」として、公開価格設定プロセスの見直しを求めた。これを受けて日証協のWGで検討が行われ、そこで取りまとめられた改善策が、現在、順次実施に移されている。 この公開価格の設定方法を含むIPO制度については、過去何度も問題点が指摘され制度改正が行われてきたが、一向に本質的解決に至らず、似たような議論・検討が繰り返されてきた様に見える。果たして今回は違うのだろうか? 筆者は、この問題の発端となったリクルート事件当時、偶々事案処理を担当していた。本稿では、その個人的体験を含め、IPO制度に関するこれまでの議論・検討を振り返るとともに、今回の改善策及び今後の目指すべき方向性について私見を述べることとしたい。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2023年2月22日 | |
「金融商品取引における顧客資産の保護の意義」 | |
大久保良夫 日本投資者保護基金 理事長 | |
米国で暗号資産交換業を行っていた大手業者が破綻し、顧客資産保護に関する規制のあり方に新たな関心が高まっている。暗号資産の規制については、米国よりも日本の方が先行しており、日本においては、暗号資産についても有価証券等を扱う金融商品取引業者(以下「金商業者」)の規制に類似した制度が構築されている。 顧客資産の預託を受けている取引業者等が破綻した場合の顧客資産の保護制度については、2008年以降の世界的な金融危機後の国際的金融改革論議の中でも様々な議論がなされるなど、国際的にも大きな関心事となっている。本稿では、我が国の証券分野における制度を中心に、金融商品取引における顧客資産保護の現状と課題を、概観してみたい。意見にわたる部分は個人のものであり、筆者の関与する組織のものではない。 |
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カテゴリー 法律 |
2023年2月8日 | |
「劣化する日本企業の競争力」 | |
中島厚志 新潟県立大学国際経済学部 教授 | |
他の主要先進国とは逆に、日本の輸出物価の上昇率は輸入物価上昇率を長年下回っており、売値を上げる付加価値創造力やイノベーションが欧米主要国より乏しいように見える。背景には国内での設備投資の不足があり、人材投資の不足もイノベーション力不足に寄与している。20年あまりのモノとヒトへの投資不足を挽回するのは容易ではないが、エネルギー危機を機にオイルショック時の日本のように産業構造転換を強力に推進しているEUに倣い、日本も円安と経済安全保障強化につながる地政学的リスクの高まりを好機として、最大限ヒトとモノへの投資に傾注することがイノベーション力と産業競争力挽回のバネとなる。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2023年1月25日 | |
「米国からみた暗号資産市場の現状と今後について」 | |
湯山智教 ジョージタウン大学 客員研究員 | |
FTX破綻を受けて暗号資産規制強化の方向に向かうと見られがちだが、足元の米国における議論を見る限り、必ずしも一筋縄ではいかないようだ。議会上院ヒアリングの議論が典型であり、主な論点は、暗号資産は証券なのかコモディティなのか、主要規制当局はSECかCFTCにすべきか、といった従来からの論点に加え、さらにコンピューターコードが金融類似機能を担うDeFi(分散型金融)はイノベーションの源泉なのか否か、コードをどのように制裁すべきか、といった点だ。足元でも暗号資産について懐疑的にみるものと、擁護すべきと考えるもので見方が真っ二つに割れており、まさにイノベーションと投資家保護というジレンマの下でどう対応するか、その行方が注目される。 | |
カテゴリー 金融政策 |
2023年1月11日 | |
「資産所得倍増プランについて」 | |
大崎貞和 野村総合研究所 主席研究員 | |
2022年末に策定された政府の資産所得倍増プランは、長年にわたって叫ばれてきたものの一向に現実化していない家計金融資産の「貯蓄から投資へ」のシフトを改めて促すことを狙いとする政策パッケージである。その内容は多岐にわたるが、とりわけNISAの拡充などの税制上の措置や中立的アドバイスの提供を促すための仕組みの創設といった内容が注目される。もっとも、リスク資産へのシフトが現実化したとしても、その投資先が日本企業であるという必然性は疑問である。日本国内で完結する「成長と資産所得の好循環」が期待できるという前提は疑ってみることも必要だろう。 | |
カテゴリー 金融政策 |