二次利用について
2024年7月24日
日銀の正常化ペースは遅すぎないか
前田栄治 ちばぎん総合研究所 取締役社長
日銀は金融政策正常化の方向に舵を切った。そのペースについて様々な評価があるが、正常化ペースが遅くなりすぎるリスクの方が気になる。日銀は2%インフレ定着を目指し「意図的な」出遅れ戦略を採用しているようにみえるが、それが「意図しない」出遅れに変化する可能性があるためだ。リスクを高めうる要因として、①名目成長に比べた中長期金利の異例な低さ、②「早すぎる正常化」といった過去の批判も踏まえた日銀の正常化スタンスの慎重さ、などが挙げられる。それによって生じる可能性が高いとみられる主な歪みは過度な円安である。対応策としては、2%目標の柔軟化、為替による物価変動への意識を高めること、などが考えられる。
カテゴリー 金融資本市場
2024年7月10日
金利がある世界において銀行が重視すべき課題
野崎浩成 東洋大学 教授
ここ1年強における銀行株価の良好なパフォーマンスは、金利上昇に伴う銀行業績改善への期待を反映したものと考えられる。それは運用サイドの収益性改善に比べ、負債サイドのコスト負担増分が限定的で、これは主に預金金利の市場金利感応度が低いことが背景にある。しかし、スマホバンキングに象徴される行動様式の変化は、預金者の行動が以前とは異なる様相をもたらすかもしれない。ネット専業銀行のコスト競争力を踏まえれば、リアルの銀行も預金金利を高めに設定する必要が出てくる可能性は容易に想像できるため、預金プライシング戦略などは極めて重要となる。しかし、金利引き上げ競争は収益性低下を招くと同時に、資産効率改善の機会を失うことも意味する。本稿では金利ある世界における「バランスシートマネジメント」の重要性を示す。
カテゴリー 金融資本市場
2024年6月26日
資産運用業の業界団体について—米国等の実情からの示唆
大久保良夫 日本投資者保護基金 理事長
投資信託協会と日本投資顧問業協会とが統合し新しい協会を設立することが公表された。国民の資産運用への関心が高まるなか、資産運用業の健全な発展を目指して、時代に即した民間業界団体のあり方を模索することは歓迎される。業界団体のあり方は規制や監督のフレームワークと直結している。わが国の資産運用業や業界団体のあり方を考えるうえで、米国等の業界団体の歴史や実情は参考になると思われるので、筆者の個人的な理解を述べてみたい。
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2024年6月12日
金融経済教育推進機構の期待と課題
竹端克利 野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部長
2024年4月5日、金融教育の推進を担う金融経済教育推進機構が認可法人として設立された。主なポイントとして、①官民一体となった司令塔組織であること、②組織目標が具体的かつ検証可能なKPIとして設定されていること、③アドバイザーの認定制度が同時に発足すること、があげられる。今回の機構設立によって金融教育論議の大きな節目を超えたことは確かだが、この先、国民全体に幅広く金融教育を普及させるためには、家計管理や金融に対して普段から関心や問題意識を持たない、いわゆる「無関心層」への働きかけが長期的には課題になってくるだろう。
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2024年5月29日
日本企業の質的変化と株式市場の転換点—次世代リーダーの台頭がもたらす「日本の未来」
藤野英人 レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長・CIO(最高投資責任者)
日本の株式市場は、企業ガバナンス改革や若手リーダーの台頭により大きな転換点を迎えている。2014年以降の一連のガバナンス改革により、日本企業は収益性や資本効率を重視するようになった。2023年には若い起業家や次世代リーダーが活躍し、企業経営の若返りが進んでいる。デフレ経済からの転換や人手不足、脱炭素などの課題がインフレ要因となる中で、日本株式市場の長期的な成長が期待される。
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2024年5月15日
株高のその後を考える
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
3月4日に日経平均株価が初めて4万円台に乗せ、一段高への期待が高まっていたが、その後は止まらぬ円安に巻き込まれ、3万円台後半に押し戻されている。とはいえ世界経済での位置付けは従来とは異なる。通貨安に伴う「悪い株高」と、日本の復活を買う「良い株高」の2通りのシナリオがあるが、「悪い株高」の回避に向け、注意を傾けるべきときだ。
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2024年4月24日
公開価格の設定プロセスの見直しについて—見直しの概要と実施状況
宮脇隆宗 日本証券業協会 自主規制本部 エクイティ市場部長
 日本証券業協会では、初値と公開価格の乖離についての問題提起を端緒とした検討を経て、2022年2月に「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」報告書を取りまとめ、公正な価格発見機能向上や、発行者及び投資者の公開価格の算定根拠等に対する納得感の向上を目指し、グローバルスタンダードを意識した施策の実現に向けて取り組みを行ってきた。2023年10月からは、仮条件の範囲外での公開価格設定、上場日程の期間短縮・柔軟化等の施策が実施可能となり、当該施策を採用するIPOも散見されるところである。本稿では、これらの施策の概要及び実施状況等について、私見を述べることとしたい。
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2024年4月10日
米国における株式手数料「無料化」のインパクトと日本への示唆
吉永高士 NRIアメリカ 金融・IT研究部門長
米国でチャールズシュワブらの大手ディスカウント証券会社が2019年10月に株式現物、ETF、オプション等のオンライン売買手数料の無料化を行って以来、4年半が経過した。日本においても、2023年に大手ネット証券が株式現物の売買手数料を廃止したこともあり、無料化後から現在に至るまでの米国証券業界や投資家市場の動向に関する本邦金融業界関係者や経営者から筆者への照会も直近では増えている。本稿では、米ディスカウント証券によるオンライン株式手数料等の「無料化」の実態と、それが起きた背景・要因と歴史的経緯、その後に加速しほぼ完遂したディスカウント証券業界の再編、および現在までのリテール証券ビジネス全体のプライシングと収益への影響や個人投資家の動向について概説する。
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2024年3月21日
新リース会計基準の適用延期について
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ
企業会計基準委員会(ASBJ)が改訂を検討しているリース会計基準の適用時期が、当初の見込みよりも遅れるとの記事が日本経済新聞に掲載された。記事によれば、適用時期が遅れるのは、小売業などから異論が噴出し基準作りが終わらないからとされている。今回の基準改訂は、日本基準の国際的整合性のために行われるが、国際会計基準(IFRS)のIFRS第16号「リース」は既に2019年度から適用されているので、日本での適用開始の遅れは、もちろん好ましいことではない。ただ、これはリース会計基準だけの問題ではない。議論の本質は、そもそもわが国の会計基準と国際的な会計基準との整合性のあり方はどうあるべきかという点にあり、その点についてより深い議論が必要である。
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2024年3月6日
急がれる「投資銀行インフラ」の整備
渡邉佳史 ストームハーバー証券 代表取締役社長
東京証券取引所は上場企業の持続的な成長と企業価値向上を実現するための施策を矢継ぎ早に打ち出しており、株式市場の本質的変化につながるものと期待しているが、それを支える本邦の投資銀行機能についても考えたい。時価総額が小さい上場会社は、期待される手数料が十分でないということで主幹事証券からも十分なサポートを受けていないのが現状である。米国では手数料体系が違う投資銀行がその役割を果たしている。本邦ではそのようなプレーヤーが限られており、「投資銀行インフラ」が十分とは言いがたい。上場会社及び運用会社のあり方に関する改革も進んでいる中で、上場会社と資本市場をつなぐ投資銀行機能の充実が今後の日本経済の成長には不可欠と考える。
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