2024年9月4日 | |
三菱UFJ事案の本質(上) —グローバルスタンダードによる顧客情報の管理を | |
森本学 日本証券経済研究所 理事長 | |
金融庁が本年6月に処分を行った三菱UFJ事案については、「規制違反自体は悪いものの、日本独特のファイアーウォール規制に抵触したものに過ぎない」という受け止め方が一部にある。しかし、本事案では、銀行グループ内で無規律に顧客情報が共有・流用されていた実態が明らかになり、それは著しくグローバルスタンダード及び市場の常識に反するものである。わが国銀行の顧客情報管理に関する考え方が、グローバルスタンダードからズレていることは、ファイアーウォール規制見直しの議論の過程でも顕在化しており、今回の事案の予兆ともなっていた。本稿では、そうした三菱UFJ事案の根本原因を明らかにするとともに、必要な対応策について私見を述べることにしたい。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2024年8月21日 | |
資産運用立国実現のための3つの新プリンシプルを読む—プリンシプルを用いた政策遂行はどこまで有効か | |
池田唯一 大和総研 専務理事 | |
政府の「資産運用立国実現プラン」を受けて、3つのプリンシプル(①プロダクトガバナンスに関する原則、②ベンチャーキャピタル向けのプリンシプル、③アセットオーナー・プリンシプル)の策定が進んでいる。プリンシプルを策定して関係当事者の行動変容を促そうとする取組みは、これまでにもコーポレートガバナンス・コードや顧客本位の業務運営の原則などの例があるが、こうした手法にはこれまで必ずしも良い評価だけがあったわけでもない。また、仮に過去のプリンシプルに一定の成果が認められるのだとしても、それが各方面に拡張された場合に、本当にねらい通りの成果につながるのかとの問題もある。本稿では、3つの新プリンシプルの内容を概観するとともに、プリンシプルを用いた手法の効果と限界について考察する。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2024年8月7日 | |
米景気堅調と高金利・ドル高の下でのカネ余り | |
吉川雅幸 三井住友DSアセットマネジメント チーフマクロストラテジスト | |
世界経済については分析すべき点が多いが、今後1~2年を考える上で、①大幅利上げをうけた米景気の先行き、②米金利高・ドル高の下でグローバルな金融環境が緩和的である理由と見通し、に注目したい。米景気は利上げの影響で減速に向かうが、移民増や企業の資金ポジションが良好なことなどから、失速は避けられよう。また、グローバルな金融環境が緩和なことは、流動性が潤沢=一種のカネ余りであることを示唆している。当面米インフレが鈍化を継続し、米金利が低下し始めると米国に集まった資金が分散、米国以外の株式や新興国債券などにプラスに働く可能性がある。ただ、中期的には①軟着陸、②金融市場の不安定化、③インフレ再燃など、複数のケースが考えられる。 | |
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2024年7月24日 | |
日銀の正常化ペースは遅すぎないか | |
前田栄治 ちばぎん総合研究所 取締役社長 | |
日銀は金融政策正常化の方向に舵を切った。そのペースについて様々な評価があるが、正常化ペースが遅くなりすぎるリスクの方が気になる。日銀は2%インフレ定着を目指し「意図的な」出遅れ戦略を採用しているようにみえるが、それが「意図しない」出遅れに変化する可能性があるためだ。リスクを高めうる要因として、①名目成長に比べた中長期金利の異例な低さ、②「早すぎる正常化」といった過去の批判も踏まえた日銀の正常化スタンスの慎重さ、などが挙げられる。それによって生じる可能性が高いとみられる主な歪みは過度な円安である。対応策としては、2%目標の柔軟化、為替による物価変動への意識を高めること、などが考えられる。 | |
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2024年7月10日 | |
金利がある世界において銀行が重視すべき課題 | |
野崎浩成 東洋大学 教授 | |
ここ1年強における銀行株価の良好なパフォーマンスは、金利上昇に伴う銀行業績改善への期待を反映したものと考えられる。それは運用サイドの収益性改善に比べ、負債サイドのコスト負担増分が限定的で、これは主に預金金利の市場金利感応度が低いことが背景にある。しかし、スマホバンキングに象徴される行動様式の変化は、預金者の行動が以前とは異なる様相をもたらすかもしれない。ネット専業銀行のコスト競争力を踏まえれば、リアルの銀行も預金金利を高めに設定する必要が出てくる可能性は容易に想像できるため、預金プライシング戦略などは極めて重要となる。しかし、金利引き上げ競争は収益性低下を招くと同時に、資産効率改善の機会を失うことも意味する。本稿では金利ある世界における「バランスシートマネジメント」の重要性を示す。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2024年6月26日 | |
資産運用業の業界団体について—米国等の実情からの示唆 | |
大久保良夫 日本投資者保護基金 理事長 | |
投資信託協会と日本投資顧問業協会とが統合し新しい協会を設立することが公表された。国民の資産運用への関心が高まるなか、資産運用業の健全な発展を目指して、時代に即した民間業界団体のあり方を模索することは歓迎される。業界団体のあり方は規制や監督のフレームワークと直結している。わが国の資産運用業や業界団体のあり方を考えるうえで、米国等の業界団体の歴史や実情は参考になると思われるので、筆者の個人的な理解を述べてみたい。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2024年6月12日 | |
金融経済教育推進機構の期待と課題 | |
竹端克利 野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部長 | |
2024年4月5日、金融教育の推進を担う金融経済教育推進機構が認可法人として設立された。主なポイントとして、①官民一体となった司令塔組織であること、②組織目標が具体的かつ検証可能なKPIとして設定されていること、③アドバイザーの認定制度が同時に発足すること、があげられる。今回の機構設立によって金融教育論議の大きな節目を超えたことは確かだが、この先、国民全体に幅広く金融教育を普及させるためには、家計管理や金融に対して普段から関心や問題意識を持たない、いわゆる「無関心層」への働きかけが長期的には課題になってくるだろう。 | |
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2024年5月29日 | |
日本企業の質的変化と株式市場の転換点—次世代リーダーの台頭がもたらす「日本の未来」 | |
藤野英人 レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長・CIO(最高投資責任者) | |
日本の株式市場は、企業ガバナンス改革や若手リーダーの台頭により大きな転換点を迎えている。2014年以降の一連のガバナンス改革により、日本企業は収益性や資本効率を重視するようになった。2023年には若い起業家や次世代リーダーが活躍し、企業経営の若返りが進んでいる。デフレ経済からの転換や人手不足、脱炭素などの課題がインフレ要因となる中で、日本株式市場の長期的な成長が期待される。 | |
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2024年5月15日 | |
株高のその後を考える | |
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆 | |
3月4日に日経平均株価が初めて4万円台に乗せ、一段高への期待が高まっていたが、その後は止まらぬ円安に巻き込まれ、3万円台後半に押し戻されている。とはいえ世界経済での位置付けは従来とは異なる。通貨安に伴う「悪い株高」と、日本の復活を買う「良い株高」の2通りのシナリオがあるが、「悪い株高」の回避に向け、注意を傾けるべきときだ。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2024年4月24日 | |
公開価格の設定プロセスの見直しについて—見直しの概要と実施状況 | |
宮脇隆宗 日本証券業協会 自主規制本部 エクイティ市場部長 | |
日本証券業協会では、初値と公開価格の乖離についての問題提起を端緒とした検討を経て、2022年2月に「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」報告書を取りまとめ、公正な価格発見機能向上や、発行者及び投資者の公開価格の算定根拠等に対する納得感の向上を目指し、グローバルスタンダードを意識した施策の実現に向けて取り組みを行ってきた。2023年10月からは、仮条件の範囲外での公開価格設定、上場日程の期間短縮・柔軟化等の施策が実施可能となり、当該施策を採用するIPOも散見されるところである。本稿では、これらの施策の概要及び実施状況等について、私見を述べることとしたい。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |