二次利用について
2025年10月29日
CBOEジャパン撤退の意味
森本学 日本証券経済研究所 理事長
 この8月末をもって、CBOEジャパンは日本におけるPTS業務を終了した。CBOE(シカゴ・オプション取引所)は、言うまでもなく米国三大取引所グループの一つであり、2021年に買収により日本に進出して以来、その事業展開は注目されてきた。この予想外に早いCBOE撤退(これにより日本に独立系PTSは無くなった)の背景には、現在、日本で急速に進む大手リテール証券の株式取引執行の内部化(インターナライゼーション)の動きがある。本稿では、このような最近の株式市場の動きに焦点を当てるとともに、そのインプリケーションについて私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2025年10月22日
サナエノミクスの行方
木野内栄治 大和証券チーフテクニカルアナリスト兼テーマリサーチ担当ストラテジスト
 今後の経済政策はどうなっていくのだろうか。アベノミクスが日銀の協力で成し得た面が強かったことに対し、今後の経済政策は財務省の協力によって成し得ることになると見る。もちろん、財務省が財政積極政策に対し、自発的かつ前向きに協力する訳ではないだろう。しかし、半ば義務的な支出の増加によって、結果的に今後も積極財政と同等の支出となる可能性が高い。その帰着として、公的債務残高/名目GDP比率の改善が継続し、財政の健全化が進む可能性が高いと計算できる。こうした社会実験を経ることで、「健全な財政の確保」との財務省設置法上の目的に対する有権解釈が、税率を闇雲に上げることではなく、最大税収を得られる最適税率を探ることに変わる蓋然性が高い。最終的には、今後の経済政策には財政当局が協力し、日本経済や市場を繁栄に導くことになると考えられる。
カテゴリー 金融資本市場
2025年10月15日
証券・金融商品トラブルの現状
高橋康文 証券・金融商品あっせん相談センター専務理事
 FINMACは、自主規制団体から委託を受けて、証券・金融商品取引の利用者からの相談、苦情等について一元的・横断的に対応している。相談・苦情の件数は年7,000件弱である。苦情を証券会社に取り次ぐが、顧客の納得が得られないなど苦情の解決が図られない場合は、あっせん手続の申立てが行われる。
 あっせん手続の新規申立ては年250件余りである。裁判件数と比較すれば、あっせん手続が、顧客にとって簡易な手続として利用されていると考えられる。
 当事者が和解した率は約7割であり、和解金額の損害請求額に対する割合は2割前後である。和解率、和解水準をどう考えたらよいのだろうか。
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2025年10月1日
のれん非償却の議論を奇貨とした抜本改革を
鶯地隆継 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科 特任教授
 内閣府の規制改革推進会議による提案を受けて、企業会計基準委員会(ASBJ)においてのれん非償却の選択適用の検討が行われている。ただ、現時点においても全ての公開企業はIFRSを任意適用できるので、のれんの非償却を選択することは既に可能である。にもかかわらず、日本基準におけるのれん非償却について、選択の是非が議論になるのは何故か。それは、のれんの非償却を望む企業が、IFRSの任意適用を望まないからである。このような状況が生まれた背景には、日本の会計環境全体の構造上の問題がある。スタートアップの成長促進に必要なことは、安易な選択適用を広く認めることではなく、日本の会計環境の抜本的改革である。のれん非償却の議論を奇貨として、改革を開始すべきである。
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2025年9月17日
地域金融と公的資金のあり方
野崎浩成 東洋大学教授
 6月、金融担当大臣から「地域金融力の強化に関する検討」が諮問された。地域における趨勢的な人口減少その他の環境変化の中で、地域金融機関等が地域経済に貢献する役割を十分に発揮できるように地域金融力の強化に必要な方策について検討を行うこととのことである。諮問の目的は純粋に、マクロ的趨勢ばかりではなく個人・法人等の価値観やニーズが変容を遂げる中で、地域金融機関が的確に対応するための必要十分条件を議論することであると考えられる。しかし、その文脈では当然、2026年3月に期限を迎える金融機能強化法に基づく資本参加の枠組みも、主要論点となるだろう。
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2025年9月3日
国債依存の臨界点:歴史が示す日本の資金調達シナリオ
平山賢一 麗澤大学経済学部教授/東京海上アセットマネジメント参与チーフストラテジスト
 日本国債の利回り上昇や日銀の国債買入減額を背景に、政府資金調達の持続性に疑問が高まりつつある。そこで本稿では、その歴史的変遷を整理している。明治維新以来、政府は内国債・外国債・短期債・借入金を組み合わせて調達し、戦争や危機のたびに比率が変動してきた。特に内国債比率が9割に達すると、外国債や借入金へ転換する「臨界点」が繰り返し観察される。現状も9割近くにあり、一部の投資家は超長期国債の保有を敬遠し始めており、発行年限の短期化や短期債依存の高まりは不可避となりつつある。今後は借入金や非市場性国債の復活も視野に入る中、国債市場の行方と信用格付けが日本経済に大きな影響を及ぼすと論じる。
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2025年8月20日
コーポレートガバナンス・コードの改訂は改革の実質化につながるか
池田唯一 大和総研 専務理事
 金融庁は、コーポレートガバナンス(CG)・コードを三たび改訂する方針を明らかにした。CG改革の実質化を促しつつ、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に真に寄与する対話を促進することがそのねらいとされる。しかし、CG改革の実質化をねらってCGコードに新たな記述を加えても、結局、それがまた新たな形式的対応を生むというのが過去の経験だった。企業と投資家との間の対話が時に形式的なものとなり、必ずしもCGコードのねらい通りになっていないことの背景には、機関投資家の抱える投資先企業数の多さをはじめ、いくつかの構造的要因が考えられる。それらにメスを入れずにCGコードを改訂しても、CG改革の真の実質化にはつながらないかもしれない。
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2025年7月16日
暗号資産の「金融商品化」を考える
森本学 日本証券経済研究所 理事長
 金融庁は、先月の金融審総会において、「暗号資産を巡る制度のあり方について検討を行う」よう諮問した。審議会の資料では、暗号資産規制に関して「金商法と親和性がある」旨説明されており、今後、ワーキンググループでは、暗号資産を金商法によって規制することが検討されるものと見られる。この暗号資産の「金融商品化」は、従来、有価証券を主たる規制対象としてきた金商法の体系からすると、大きな変革であり違和感もある。それでは、金融庁はなぜ敢えて暗号資産を「金融商品化」しようとしているのか?
 本稿では、こうした暗号資産の「金融商品化」について、その理由及び論点を、理論面及び実態面から考察することとしたい。
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2025年7月2日
米国投信協会・ワシントンサミットにおける模様
清水毅 投資信託協会 グローバル・リサーチ・オフィサー
 筆者は、米国投信協会(ICI)がワシントンで年に一度開くコンファレンス「リーダーシップ・サミット2025」に参加してきた。サミットには、資産運用会社の幹部に加え、テクノロジー、法律・会計・税務の各分野のリーダーが一堂に会し、2日間にわたり、パネルディスカッションとタイムリーな議論が実施された。カンファレンスの全体テーマは、プライベートマーケットの台頭とファンド業界に与える影響、そして個人投資家がプライベートマーケットに参入する機会の拡大であった。
 2日間のサミットで筆者が興味深いと感じた以下の5つのセッションの中から印象に残った発言を紹介することによって、米国資産運用業界の動向を伝えたい。
 1. 米国ICI エリック・パンCEOのスピーチ
 2. 新CEOからのインサイト
 3. パブリックマーケットとプライベートマーケットのシナジー効果について
 4. プラットフォーマーからの見解ー課題、機会およびオルタナティブについて
 5. 資産運用会社CEOのフォーカス
カテゴリー 金融資本市場
2025年6月18日
人口減社会における地域銀行への期待
屋敷利紀 金融庁総合政策局長
 人口減少のなかでも日本経済が持続的に発展するには、地域銀行が営業地域で質の高い金融仲介機能を持続的に発揮すること等を通じて地域経済の活性化に貢献していくことが求められる。その際、地域銀行には、一定の収益を確保して財務の健全性を維持すること、流動性リスクやサイバーリスク等リスク管理上の最低要件を充足することの両立が必要となる。両立の方策として、単独での対応、非競争領域の共同化、合併・統合等がありうる。どれを選ぶかはあくまで経営判断で、金融庁が立ち入るべきではないが、検査・モニタリングを通じて各行の取組を確認していく。地域銀行の頭取方は経営体力に余裕があるいまこそ将来に向けた議論を深めるべきだ。
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