二次利用について
2024年10月30日
デフレ脱却と少子高齢化が同時に進行するなか、望まれる財政再建の方向性は何か
小黒一正 法政大学 教授
円安や労働力の減少に伴う人手不足による賃金上昇も反映し、日本経済は着実にデフレからインフレ経済に転換し始めている。このような状況のなか、金融政策の正常化で長期金利の上昇が本格化する前に、もう一段の財政再建を進めておく必要がある。財政再建の新たな目標も早急に検討すべきだが、その鍵を握るのが社会保障改革だ。子育てを担う現役世代の負担増を抑制するためにも、政府は2040年度・50年度までの社会保険料率の上昇幅に関する試算を早急に示した上で、「こども未来戦略」脚注27の趣旨も踏まえて、社会保険料率の全体に上限を定めることも検討すべきではないか。
カテゴリー 金融政策
2024年10月16日
損害保険市場の健全な競争環境を実現するには
植村信保 福岡大学商学部 教授
企業向け保険料の事前調整問題や旧ビッグモーターによる保険金不正請求事件は単なるコンプライアンス上の問題ではなく、損害保険会社が厳しい規制下に置かれていた時代に形成されたコンダクト(企業行動)を、30年経っても変えられなかったことが問題の本質と言える。「いびつな取引慣行」に代表される保険市場の競争環境をより健全なものに改めるには、発覚した個々の問題の対処療法だけでは不十分であり、企業内代理店や大型の乗合・兼業代理店のあり方を見直し、顧客の意識改革を促すような抜本的な取り組みが必要である。6月の有識者会議報告書を受けた金融庁の対応や、9月に始まった金融審WGにおける議論に注目したい。
カテゴリー 金融資本市場
2024年10月2日
東証PBR改革が本質的に意味すべきところ
野崎浩成 東洋大学 教授
東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」からはじまるPBR改革については、発表当初から疑問を感じてきた。これまで株価バリュエーションに理解も認識もない経営者の意識を若干替えたという点は評価するものの、正直なところ適切に企業経営者にその本質が伝わっているかというのが個人的感想である。(どこまでが中国株式市場からのキャピタルフライトの影響で、どこまでがこの改革の効果かは釈然としないものの)日本株のパフォーマンスが顕著に好調だったこともあり、国内外機関投資家による肯定的な受け止めやメディア等による高い評価も得られているが、PBR改革については適切な理解が不可欠である。
カテゴリー 金融資本市場
2024年9月25日
三菱UFJ事案の本質(下)―投資家・市場への眼差しを欠く総合金融サービス論は危険―
森本学 日本証券経済研究所 理事長
本年6月の三菱UFJ事案の処分理由は、概ね、(1)顧客情報の不適切な共有、(2)銀行に許されない証券業務の実行、の二つである。(下)で論ずる(2)は、本来は銀行・証券業務に跨る不適切行為なのであるが、この問題には様々な切り口・視点があり、処分理由ではその一部だけが表れているため、根本原因が見えづらくなっている。本稿では、本事案の行間、余白を読むことにより、その根本原因の輪郭を描くとともに、この問題の解決の方向性について私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2024年9月18日
IFRS会計基準の業績指標
~IFRS第18号の狙い~
鶯地隆継 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科 特任教授
国際会計基準審議会(IASB)は4月に新基準IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」を公表した。新基準では、これ迄定義されていなかった「営業利益」が定義され、統一的な表示が義務付けられ、「経営者が定義した業績指標(MPM)」というこれまでにはない新たな開示項目が加わった。IFRS第18号はIFRSを適用する全ての企業が対象となる基準で、企業業績そのものを表現する方法の変更なので、その影響は極めて大きく、将来的には日本の財務諸表のあり方にも大きく影響を及ぼす可能性がある。IFRS第18号はIASBの長年の議論の集大成であり、その狙いを正しく理解する必要がある。
カテゴリー 金融資本市場
2023年6月21日
最悪のデフォルト・ユニゾ社債の教訓
森本学 日本証券業協会 副会長
ユニゾHDの破綻劇について、報道では、メインバンクのみずほ銀行が早逃げする一方地銀が逃げ遅れたという見方や、元社長の個人的怨念などに関心が集まっている。しかし、本件の最大の被害者はユニゾ債の保有者であり、それら社債権者が不本意な経過により多くの損失を負担させられたところに、この破綻劇の特異性がある。本稿では、ユニゾ債のデフォルトへの過程を批判的に検証するとともに、わが国において低格付け債の信頼性を回復するためにどの様な改善策が求められるか、について私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2023年5月31日
金融政策と銀行株
丹羽孝一 シティグループ証券 アナリスト
金融政策の変更が銀行株に与える影響には光と影がある。メリットは利益率の拡大、貸出残高の拡大、バリュエーションの上昇、デメリットは既契約の経済価値減少である。今後の日銀の金融政策の正常化は、銀行株すべての上昇に繋がるわけではなく、むしろ、企業間格差が拡大するとみる。外部環境不透明な中、各銀行には財務健全性を維持・確保し、基盤強靭化の投資を加速し、他社にはない独自性の発揮すること、が期待される。来るべきインフレの時代で求められる銀行経営の判断基準はこれまでのデフレ局面とは異なる点が多く、従来以上に柔軟かつ機動的な判断が求められそうだ。
カテゴリー 金融政策
2023年4月26日
新NISAの何が問題なのか
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
岸田文雄内閣の目玉政策の1つとして、現行の少額投資非課税制度(NISA)が大幅拡充され、2024年から新NISAとしてスタートすることになった。しかし、筆者はこの優遇税制には賛成できない。国民の資産運用の選択に対して中立ではないうえに、細かな制度設計がまずく、選択できる商品の幅が狭かったり、特定の業者だけがメリットを享受できたりする仕組みになっているからだ。
カテゴリー 金融資本市場
2023年4月12日
PBR1倍割れの上場会社への対応について
池田唯一 大和総研 常務理事
日本の上場会社の約半数がPBR(株価純資産倍率)1倍割れとなっている状況を受け、東京証券取引所(東証)は、継続的にPBRが1倍を割っている上場会社に対して、改善に向けた方針などの開示を強く要請していくとの方針を示している。日本企業のPBRが欧米企業のそれに比べて見劣りがするとされる中で、上場会社のPBRの改善を図りたいという東証の意図は分かるが、果たして今回の措置は有効にその機能を発揮するのか。PBRは、以前から言われてきたROE(自己資本利益率)とは異なり、上場会社が自助努力で直接、コントロールできる指標ではない。また、一口にPBR1倍割れと言っても、そこには業種全体の置かれた状況や規制環境など様々な要因が絡み合っている。さらに、PBRは一定の会計ルールに従って計算された純資産額から導出される数字であり、1倍という水準に絶対的な意味を持たせることには慎重な判断が求められる。これらを踏まえ、今回の措置の有効性について検討を加える。
カテゴリー 金融資本市場
2023年3月29日
今日の証券市場の論点―3.IPO制度(下)
森本学 日本証券業協会 副会長
(上)では、我が国のIPO制度が、過去の様々な出来事や指摘を受けて変遷してきたことを振り返った。(下)では、今回のIPO制度を巡る議論・検討のどこが、従来の繰り返しでは無い新しい点なのかを論じた上で、今後のIPO市場のあるべき姿について私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場