2023年5月31日 | |
「金融政策と銀行株」 | |
丹羽孝一 シティグループ証券 アナリスト | |
金融政策の変更が銀行株に与える影響には光と影がある。メリットは利益率の拡大、貸出残高の拡大、バリュエーションの上昇、デメリットは既契約の経済価値減少である。今後の日銀の金融政策の正常化は、銀行株すべての上昇に繋がるわけではなく、むしろ、企業間格差が拡大するとみる。外部環境不透明な中、各銀行には財務健全性を維持・確保し、基盤強靭化の投資を加速し、他社にはない独自性の発揮すること、が期待される。来るべきインフレの時代で求められる銀行経営の判断基準はこれまでのデフレ局面とは異なる点が多く、従来以上に柔軟かつ機動的な判断が求められそうだ。 | |
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2023年5月17日 | |
「中国の2023年の経済政策と当面の経済状況」 | |
田中修 拓殖大学大学院経済学研究科 客員教授 | |
3月の中国全国人民代表大会は、2023年のGDP実質成長率の目標を「5%前後」と設定した。このため、財政政策は「力を加え、効果を高め」、金融政策は「精確・有力」でなければならないとされ、この成長目標実現をサポートすることになった。しかし、他方で財政の持続可能性・債務リスクの防止とのバランスも意識されている。1-3月期の成長率は4.5%と年間目標を下回った。しかし、これは中国の四半期成長率が、先進国の前期比成長率ではなく、前年同期比成長率を採用しているため、実際の経済回復が十分に反映されなかった面がある。個別指標をみると経済の回復は明らかであり、年間目標の達成は可能であるが、24年以降の5%成長達成は不透明である。 | |
カテゴリー 金融政策 |
2023年1月25日 | |
「米国からみた暗号資産市場の現状と今後について」 | |
湯山智教 ジョージタウン大学 客員研究員 | |
FTX破綻を受けて暗号資産規制強化の方向に向かうと見られがちだが、足元の米国における議論を見る限り、必ずしも一筋縄ではいかないようだ。議会上院ヒアリングの議論が典型であり、主な論点は、暗号資産は証券なのかコモディティなのか、主要規制当局はSECかCFTCにすべきか、といった従来からの論点に加え、さらにコンピューターコードが金融類似機能を担うDeFi(分散型金融)はイノベーションの源泉なのか否か、コードをどのように制裁すべきか、といった点だ。足元でも暗号資産について懐疑的にみるものと、擁護すべきと考えるもので見方が真っ二つに割れており、まさにイノベーションと投資家保護というジレンマの下でどう対応するか、その行方が注目される。 | |
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2023年1月11日 | |
「資産所得倍増プランについて」 | |
大崎貞和 野村総合研究所 主席研究員 | |
2022年末に策定された政府の資産所得倍増プランは、長年にわたって叫ばれてきたものの一向に現実化していない家計金融資産の「貯蓄から投資へ」のシフトを改めて促すことを狙いとする政策パッケージである。その内容は多岐にわたるが、とりわけNISAの拡充などの税制上の措置や中立的アドバイスの提供を促すための仕組みの創設といった内容が注目される。もっとも、リスク資産へのシフトが現実化したとしても、その投資先が日本企業であるという必然性は疑問である。日本国内で完結する「成長と資産所得の好循環」が期待できるという前提は疑ってみることも必要だろう。 | |
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2022年12月14日 | |
「IFRS会計基準任意適用の意義とその評価」(下) | |
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ | |
日本が2009年にIFRS(国際財務報告基準)会計基準の任意適用を開始してから10年以上が経過し、日本においてIFRS会計基準の任意適用を行う企業は、JPX日経インデックス400対象銘柄の時価総額ベースで全時価総額の半数以上を占めるに至っている。IFRSを策定するIASB(国際会計基準審議会)の母体であるIFRS財団は、世界の主要な市場でIFRS会計基準が強制適用されることを目標としており、日本においても一時期IFRS会計基準の強制適用を検討していた。このため、日本のIFRS任意適用制度は現時点においても制度として暫定的な位置付けとなったままである。一般に任意適用は強制適用に移行する時期の過渡的なものとみられているが、その意義を正しく評価する時期に来ている。 | |
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2022年11月30日 | |
「IFRS会計基準任意適用の意義とその評価 」(上) | |
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ | |
日本が2009年にIFRS(国際財務報告基準)会計基準の任意適用を開始してから10年以上が経過し、日本においてIFRS会計基準の任意適用を行う企業は、JPX日経インデックス400対象銘柄の時価総額ベースで全時価総額の半数以上を占めるに至っている。IFRSを策定するIASB(国際会計基準審議会)の母体であるIFRS財団は、世界の主要な市場でIFRS会計基準が強制適用されることを目標としており、日本においても一時期IFRS会計基準の強制適用を検討していた。このため、日本のIFRS任意適用制度は現時点においても制度として暫定的な位置付けとなったままである。一般に任意適用は強制適用に移行する時期の過渡的なものとみられているが、その意義を正しく評価する時期に来ている。 | |
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2022年9月21日 | |
「景気回復と両立する財政健全化の展望」 | |
河野龍太郎 BNPパリバ証券株式会社 経済調査本部長チーフエコノミスト | |
異次元緩和の最大の弊害は、財政規律の弛緩だ。膨張する公的債務は社会保障制度の持続可能性への疑念を強め、消費低迷をもたらしている。長期金利が急騰すると、経済と物価の安定が損なわれるため、日銀は長期金利の安定を図ろうとするが、それに成功すると、益々、財政の日銀頼みが強まる。政府は、日銀が事実上、公的債務管理に既に組み込まれていることを公に認めた上で、日銀の逆鞘リスクにコミットすべきだ。財政健全化については、潜在成長率の低迷を考慮すると、間隔を開けた小刻み消費増税が有効だ。2-3年に一度の0.5%増税なら、不況を回避しつつ、財政健全化が可能となる。逆進性対策としては、低所得者向けの社会保険料の引き下げが望ましい。 | |
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2022年9月6日 | |
「債券は市場金利上昇でも減損不要」 | |
岡本修 合同会社新宿経済研究所 代表社員社長 | |
地域金融機関はこれまで、低金利環境が長引くうえに預貸ギャップが拡大し続けるという困難な状況のなかで、有価証券運用に力を入れざるを得なかった。とくに運用デュレーションの長期化を強いられたケースも多いだろう。こうしたなか、昨今の金利変動などの要因もあり、有価証券運用で含み損失を抱える地域金融機関がじわりと増えているが、金融商品会計、金融規制だけの視点からは、とくに国内基準行に関していえば、金利上昇に伴い有価証券ポートフォリオに含み損が発生したとしても、債券の含み損をある程度「塩漬け」にすることが容認されることを理解すべきである。 | |
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2021年10月8日 | |
「正常化に向かう米国金融政策」 | |
中曽 宏 株式会社大和総研 理事長 | |
米国FRBパウエル議長は、8 月27日、カンザスシティ連銀が毎年ジャクソンホールで開催するシンポジウムで講演し、2021年内にテーパーリングを開始して金融政策の正常化に向かうことを示唆した。その後開催された9月のFOMCでもその方向性が確認された。本稿では、今後予想される米国の金融政策の正常化プロセスを整理したうえで、その留意点や内外金融市場に与えうる影響を考察する。 | |
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