2024年10月30日 | |
デフレ脱却と少子高齢化が同時に進行するなか、望まれる財政再建の方向性は何か | |
小黒一正 法政大学 教授 | |
円安や労働力の減少に伴う人手不足による賃金上昇も反映し、日本経済は着実にデフレからインフレ経済に転換し始めている。このような状況のなか、金融政策の正常化で長期金利の上昇が本格化する前に、もう一段の財政再建を進めておく必要がある。財政再建の新たな目標も早急に検討すべきだが、その鍵を握るのが社会保障改革だ。子育てを担う現役世代の負担増を抑制するためにも、政府は2040年度・50年度までの社会保険料率の上昇幅に関する試算を早急に示した上で、「こども未来戦略」脚注27の趣旨も踏まえて、社会保険料率の全体に上限を定めることも検討すべきではないか。 | |
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2023年11月22日 | |
国民には理解し難い「YCCの再修正」 | |
水野温氏 | |
10月の金融政策決定会合では「YCCの再修正」が決定された。主な意見をみると、政策委員会は今後も「YCCの枠組みは維持すべき」との合意形成がある。財政健全化の道筋がみえないためであろう。日銀は長期金利急騰を回避するため、国債買入れ縮小とマイナス金利政策の解除には慎重な姿勢か。ただ、「日銀はインフレ目標を達成しているにもかかわらず、放漫財政を下支えするために、物価高で家計を犠牲にしても金融緩和を継続している」と解釈されると、国民の信頼を失い、「期待に働きかける金融政策」ができなくなる。政府が物価高対策を行い、日銀は大規模緩和を通じて、政府と一緒にデフレ対策を行うユニークなポリシーミックスは、資産インフレや格差拡大を助長しかねない。 | |
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2023年11月8日 | |
YCC柔軟化では国債買入れ額に注目せよ | |
森本学 日本証券経済研究所 理事長 | |
日銀は、再びYCCを修正した。昨年12月の本格的YCC柔軟化から数えると既に三度目であり、日銀の苦心が偲ばれる。ただし、これまでのところ豪州準備銀行の様な市場混乱は起こしておらず、報道によれば日銀幹部も市場調節面では手応えを感じている模様である。筆者が接する財務省、金融庁の幹部も「長期金利は日銀がコントロールしているので心配していない(心配なのは為替だ)」と言う者が多い。一方で、この間、日銀の国債買入れ額は著増しており、YCCの金利操作対象である10年債は84%を日銀が保有するという買占め状態に至っている。YCCを柔軟化しているにも拘らず、それを維持するための量的介入はむしろ強化されている訳で、一種のパラドックス(市場関係者にとっては不思議ではないが)が生じている。本稿では、このようなYCC柔軟化の量的側面をどう考えるべきか、さらに、その今後の市場対応へのインプリケーションについて私見を述べることとしたい。 | |
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2023年6月14日 | |
一連のクレジットイベントからAT1債を再考する | |
中空麻奈 BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部 副会長 | |
2023年が始まり、米国金融機関の経営破綻が相次いでいる。3月8日にシルバーゲートが自主的な清算を選んだことを皮切りに、10日シリコンバレー銀行、12日シグネーチャー銀行、5月1日ファーストリパブリック銀行が相次ぎ経営破綻したが、これで収束したと言えるかも不透明な状態で危うい。米国の金融機関破綻については、これまでの問題とは異なる新しい金融システム不安の萌芽なのだと整理することが可能である。ALMの不一致という、相当初歩的なミスもあったが、仮想通貨やベンチャーキャピタルなどリスクマネーの供給先に疑義が出たことなどは新しいリスクであると言えなくもない。 | |
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2023年5月31日 | |
金融政策と銀行株 | |
丹羽孝一 シティグループ証券 アナリスト | |
金融政策の変更が銀行株に与える影響には光と影がある。メリットは利益率の拡大、貸出残高の拡大、バリュエーションの上昇、デメリットは既契約の経済価値減少である。今後の日銀の金融政策の正常化は、銀行株すべての上昇に繋がるわけではなく、むしろ、企業間格差が拡大するとみる。外部環境不透明な中、各銀行には財務健全性を維持・確保し、基盤強靭化の投資を加速し、他社にはない独自性の発揮すること、が期待される。来るべきインフレの時代で求められる銀行経営の判断基準はこれまでのデフレ局面とは異なる点が多く、従来以上に柔軟かつ機動的な判断が求められそうだ。 | |
カテゴリー 金融政策 |
2023年5月17日 | |
中国の2023年の経済政策と当面の経済状況 | |
田中修 拓殖大学大学院経済学研究科 客員教授 | |
3月の中国全国人民代表大会は、2023年のGDP実質成長率の目標を「5%前後」と設定した。このため、財政政策は「力を加え、効果を高め」、金融政策は「精確・有力」でなければならないとされ、この成長目標実現をサポートすることになった。しかし、他方で財政の持続可能性・債務リスクの防止とのバランスも意識されている。1-3月期の成長率は4.5%と年間目標を下回った。しかし、これは中国の四半期成長率が、先進国の前期比成長率ではなく、前年同期比成長率を採用しているため、実際の経済回復が十分に反映されなかった面がある。個別指標をみると経済の回復は明らかであり、年間目標の達成は可能であるが、24年以降の5%成長達成は不透明である。 | |
カテゴリー 金融政策 |
2023年1月25日 | |
米国からみた暗号資産市場の現状と今後について | |
湯山智教 ジョージタウン大学 客員研究員 | |
FTX破綻を受けて暗号資産規制強化の方向に向かうと見られがちだが、足元の米国における議論を見る限り、必ずしも一筋縄ではいかないようだ。議会上院ヒアリングの議論が典型であり、主な論点は、暗号資産は証券なのかコモディティなのか、主要規制当局はSECかCFTCにすべきか、といった従来からの論点に加え、さらにコンピューターコードが金融類似機能を担うDeFi(分散型金融)はイノベーションの源泉なのか否か、コードをどのように制裁すべきか、といった点だ。足元でも暗号資産について懐疑的にみるものと、擁護すべきと考えるもので見方が真っ二つに割れており、まさにイノベーションと投資家保護というジレンマの下でどう対応するか、その行方が注目される。 | |
カテゴリー 金融政策 |
2023年1月11日 | |
資産所得倍増プランについて | |
大崎貞和 野村総合研究所 主席研究員 | |
2022年末に策定された政府の資産所得倍増プランは、長年にわたって叫ばれてきたものの一向に現実化していない家計金融資産の「貯蓄から投資へ」のシフトを改めて促すことを狙いとする政策パッケージである。その内容は多岐にわたるが、とりわけNISAの拡充などの税制上の措置や中立的アドバイスの提供を促すための仕組みの創設といった内容が注目される。もっとも、リスク資産へのシフトが現実化したとしても、その投資先が日本企業であるという必然性は疑問である。日本国内で完結する「成長と資産所得の好循環」が期待できるという前提は疑ってみることも必要だろう。 | |
カテゴリー 金融政策 |
2022年12月14日 | |
IFRS会計基準任意適用の意義とその評価(下) | |
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ | |
日本が2009年にIFRS(国際財務報告基準)会計基準の任意適用を開始してから10年以上が経過し、日本においてIFRS会計基準の任意適用を行う企業は、JPX日経インデックス400対象銘柄の時価総額ベースで全時価総額の半数以上を占めるに至っている。IFRSを策定するIASB(国際会計基準審議会)の母体であるIFRS財団は、世界の主要な市場でIFRS会計基準が強制適用されることを目標としており、日本においても一時期IFRS会計基準の強制適用を検討していた。このため、日本のIFRS任意適用制度は現時点においても制度として暫定的な位置付けとなったままである。一般に任意適用は強制適用に移行する時期の過渡的なものとみられているが、その意義を正しく評価する時期に来ている。 | |
カテゴリー 金融政策 |
2022年11月30日 | |
IFRS会計基準任意適用の意義とその評価 (上) | |
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ | |
日本が2009年にIFRS(国際財務報告基準)会計基準の任意適用を開始してから10年以上が経過し、日本においてIFRS会計基準の任意適用を行う企業は、JPX日経インデックス400対象銘柄の時価総額ベースで全時価総額の半数以上を占めるに至っている。IFRSを策定するIASB(国際会計基準審議会)の母体であるIFRS財団は、世界の主要な市場でIFRS会計基準が強制適用されることを目標としており、日本においても一時期IFRS会計基準の強制適用を検討していた。このため、日本のIFRS任意適用制度は現時点においても制度として暫定的な位置付けとなったままである。一般に任意適用は強制適用に移行する時期の過渡的なものとみられているが、その意義を正しく評価する時期に来ている。 | |
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