二次利用について
2025年8月20日
コーポレートガバナンス・コードの改訂は改革の実質化につながるか
池田唯一 大和総研 専務理事
 金融庁は、コーポレートガバナンス(CG)・コードを三たび改訂する方針を明らかにした。CG改革の実質化を促しつつ、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に真に寄与する対話を促進することがそのねらいとされる。しかし、CG改革の実質化をねらってCGコードに新たな記述を加えても、結局、それがまた新たな形式的対応を生むというのが過去の経験だった。企業と投資家との間の対話が時に形式的なものとなり、必ずしもCGコードのねらい通りになっていないことの背景には、機関投資家の抱える投資先企業数の多さをはじめ、いくつかの構造的要因が考えられる。それらにメスを入れずにCGコードを改訂しても、CG改革の真の実質化にはつながらないかもしれない。
カテゴリー 金融資本市場
2025年7月16日
暗号資産の「金融商品化」を考える
森本学 日本証券経済研究所 理事長
 金融庁は、先月の金融審総会において、「暗号資産を巡る制度のあり方について検討を行う」よう諮問した。審議会の資料では、暗号資産規制に関して「金商法と親和性がある」旨説明されており、今後、ワーキンググループでは、暗号資産を金商法によって規制することが検討されるものと見られる。この暗号資産の「金融商品化」は、従来、有価証券を主たる規制対象としてきた金商法の体系からすると、大きな変革であり違和感もある。それでは、金融庁はなぜ敢えて暗号資産を「金融商品化」しようとしているのか?
 本稿では、こうした暗号資産の「金融商品化」について、その理由及び論点を、理論面及び実態面から考察することとしたい。
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2025年7月2日
米国投信協会・ワシントンサミットにおける模様
清水毅 投資信託協会 グローバル・リサーチ・オフィサー
 筆者は、米国投信協会(ICI)がワシントンで年に一度開くコンファレンス「リーダーシップ・サミット2025」に参加してきた。サミットには、資産運用会社の幹部に加え、テクノロジー、法律・会計・税務の各分野のリーダーが一堂に会し、2日間にわたり、パネルディスカッションとタイムリーな議論が実施された。カンファレンスの全体テーマは、プライベートマーケットの台頭とファンド業界に与える影響、そして個人投資家がプライベートマーケットに参入する機会の拡大であった。
 2日間のサミットで筆者が興味深いと感じた以下の5つのセッションの中から印象に残った発言を紹介することによって、米国資産運用業界の動向を伝えたい。
 1. 米国ICI エリック・パンCEOのスピーチ
 2. 新CEOからのインサイト
 3. パブリックマーケットとプライベートマーケットのシナジー効果について
 4. プラットフォーマーからの見解ー課題、機会およびオルタナティブについて
 5. 資産運用会社CEOのフォーカス
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2025年6月18日
人口減社会における地域銀行への期待
金融庁総合政策局長 屋敷利紀
 人口減少のなかでも日本経済が持続的に発展するには、地域銀行が営業地域で質の高い金融仲介機能を持続的に発揮すること等を通じて地域経済の活性化に貢献していくことが求められる。その際、地域銀行には、一定の収益を確保して財務の健全性を維持すること、流動性リスクやサイバーリスク等リスク管理上の最低要件を充足することの両立が必要となる。両立の方策として、単独での対応、非競争領域の共同化、合併・統合等がありうる。どれを選ぶかはあくまで経営判断で、金融庁が立ち入るべきではないが、検査・モニタリングを通じて各行の取組を確認していく。地域銀行の頭取方は経営体力に余裕があるいまこそ将来に向けた議論を深めるべきだ。
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2025年6月4日
プラチナNISAは誰にでも
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
 「プラチナNISA」の導入案が浮上している。65歳以上の高齢者を対象にした少額投資非課税制度で、特徴は現行NISAでは選択できない毎月決算型の投資信託も対象になることだ。毎月決算型には否定論者も多いが、現在は商品性も改善され、除外を続ける理由は乏しい。分配金を使って家族との時間を持てば、かけがえのない「思い出資産」の形成につながる可能性もある。無分配型の投信を使って金融資産を膨らませ、多額の相続税を支払うよりもよいとみる人も多そうで、65歳以上に限らず、大いに推進してもらいたい。
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2025年5月21日
トランプ政権がもたらす金融のブロック化への対応
SBI大学院大学教授 柴崎健
 安倍政権以降、日本ではデフレ脱却に向けて金融を成長戦略の柱に据えてきた。新しい資本主義を実現することが日本を豊かにして、構造問題の解決に繋がるという考え方は極めて正しい。しかし、トランプ政権の発足を受けて、経済安全保障に比重が置かれるなか、新自由主義的な金融フローには国益を考慮した一定の歯止めがかかる時代になっている。日本の資本市場では、リスクマネーを海外から受け入れる一方で、国内金融資産や企業の余剰資金は海外へ向かっており、国内で生まれたキャッシュフローが国内に留まる部分は必ずしも多くない。日本でも、自国内で成長と投資の果実を享受できる「リスクマネーのエコシステム」の構築が求められる。
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2025年5月7日
デジタル化推進は中央・地方問わず急務
元会計検査院長 田中弥生
 会計検査院の院長を3月に退官した田中弥生氏が、金融資本市場展望のインタビューに応じた。会計検査院が24年11月に発表した23年度決算検査報告では、戦後初めて明らかになった補正予算の執行状況や、経済対策予算の効果検証に注目が集まった。在任期間を振り返りながら、現状の決算制度の課題や、検査から見える自治体のデジタル化の現状、検査院の社会的役割を国民に伝える広報改革などについて語り、これからの会計検査院のあり方を考える。
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2025年4月16日
中国AI産業の最新動向とDeepSeekの衝撃
野村総合研究所未来創発センターエキスパート 李智慧
 人工知能(AI)の研究、開発、実装において、中国は世界的に大きな存在感を示している。高まる技術力、革新性、そして国家主導の推進政策などにより、人工知能分野における中国の実力は米国に次ぐ位置を占めている。AI企業数で世界2位を記録し、DeepSeek(ディープシーク)をはじめ数々のAI技術の社会実装が急ピッチに実施されるなか、中国のAI産業は減速することなく成長しつづけている。近年ではAIを物理世界に活用できるロボット産業も急速に発展し、一部企業の技術力は米国と肩を並べるほどに成長した。本稿では書籍『チャイナ・イノベーションは死なない』の著者である野村総合研究所の李 智慧エキスパートが、現地での取材および中国ICT分野のシンクタンクとの共同研究成果に基づいてディープシークも含めた中国AI産業の最新動向や代表的な応用事例などを紹介し、今後の展望を説明する。
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2025年4月2日
トランプ政権のエネルギー政策
経済産業研究所コンサルティングフェロー 藤和彦
 トランプ政権のエネルギー政策の要諦は「エネルギー・ドミナンス(支配)」だ。トランプ氏は就任初日にパリ協定からの離脱を宣言するなど迅速な動きを示しているが、政策の柱である「原油生産を日量300万バレル増やす」ことは困難だろう。原油生産は政権発足前から記録的な水準に達しており、原油価格が安値で推移する中、増産のインセンティブは乏しく、「原油価格の下落」と「原油生産の増加」を両立させることは不可能な状況にある。トランプ政権の誕生を待ち望んでいた石油業界からは政策面での不確実性への懸念が生じており、特に関税政策に対する不満は強い。トランプ政権が悪弊を改めない限り、エネルギードミナンスの実現は「絵に書いた餅」に終わるだろう。
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2025年3月19日
なぜ今、銀行の再編を論じるべきなのか
ありあけキャピタル代表取締役CIO 田中克典
 日本における「金利のある時代」の到来により、銀行業界の競争環境が大きく変化している。これまでのゼロ金利・マイナス金利の環境では、与信費用の低さや国債売却益によって銀行の収益が維持されてきた。しかし、金利が上昇すると資金利益は増加する一方で、経費が増加し、経費率の高い銀行は競争力を失う可能性があり、優勝劣敗が明らかになることになる。地方銀行の再編は、経営効率の向上や人材確保の観点から避けられない選択肢となる。県内再編やホールディングス化を通じて規模拡大と効率化を進め、競争力を高めることが重要だ。
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