二次利用について
2026年2月18日
企業開示制度の見直し―見直し後の状況を踏まえて継続的な検討を
池田唯一 大和総研専務理事
 2025年12月、金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(WG)が報告書を公表した。スタートアップ等の資金調達ニーズの高まり、サステナビリティ情報その他の非財務情報の開示の充実など、金融商品取引法上の企業開示をめぐる環境の変化を踏まえ、報告書は、①有価証券届出書の提出免除基準の引上げ、②特定投資家私募制度における勧誘対象範囲の拡大、③株式報酬にかかる開示規制の見直し、④非財務情報の開示にかかる虚偽記載等に関する責任の範囲の明確化(セーフハーバー・ルールの導入)を提言する。金融庁は、提言の内容を踏まえて制度の整備を進め、国会に金融商品取引法の改正案を提出する方針だ。提言は、直面する課題への対応として、おおむね妥当な結論と考えられるが、WGでは、項目によって、より踏み込んだ検討を求める意見も出された。今回の制度見直し後の状況を検証しながら、継続的に検討を行っていくことが求められるだろう。
カテゴリー 金融資本市場
2026年2月4日
AIガバナンスの最前線(上)―アジャイルガバナンスとは何か
羽深宏樹 京都大学法学研究科特任教授
 AIが社会の前提を急速に書き換えるなか、安全にAIを活用するための「AIガバナンス」の必要性が高まっている。日本では25年9月にAI推進法が全面施行されたが、実効性の面で課題は多い。専門家の羽深宏樹弁護士に話を聞いた。前編では「アジャイルガバナンス」の基本的な考え方を整理する。アジャイルガバナンスとは、変化の激しい環境を前提にガバナンスのPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを迅速に回す考え方だ。AI時代には、法律はゴールや原則を示すものにとどめ、ガイドラインや必要に応じた制裁を組み合わせて運用することが重要となる。また、従来の過失責任の考え方が適用しにくくなるなか、新たな責任と規制の枠組みが求められている。(聞き手/編集委員 大崎貞和)
カテゴリー 金融資本市場
2026年1月21日
日本のスタートアップエコシステムへの期待
勝又幹英 INCJ前代表取締役社長
 2002年から大学でプライベートエクイティを教え、民間VCの社長としてVC実務を経験し、2015年から産業革新機構社長として144件の投資を行った。現在はスタートアップやVCへの助言を行い、大学でも講義を担当している。日本のVCにはファンドの長期化、資本政策の高度化、専門性向上、EXIT戦略の事前設計が求められる。一方スタートアップには、投資家視点を踏まえた資料作成や財務リテラシー向上が必要である。また、アカデミアでの起業家教育は、既に起業を志向している者向けだけでなく、一般学生への“種まき”として広く提供され、その際にVCについての教育も併せて教育されるべきだと提言している。
カテゴリー 金融資本市場
2026年1月7日
金利上昇局面で進行する銀行店舗戦略の軌道修正
杉山敏啓 日本大学経済学部教授
 金利規制が敷かれていた時代、銀行業は預金残高を拡大すれば相応の利ざやが得られたため、銀行経営では「規模の成長力」が重視された。そのためには立地条件が良い店舗網を持つ必要があり、金融機関の出店意欲は旺盛であった。1994年10月に預金金利が完全自由化された頃、奇しくも銀行業の国内有人店舗数は歴史的ピークに至った。以降、店舗数は30年近く減少基調を辿った。金融再編、不良債権問題、低金利環境などを背景にリストラの時代が続いたからだ。近年では久しぶりに金利上昇局面が到来し、大手銀行が軽量タイプの新形態店舗を出店するなど、銀行業のリアル店舗戦略に軌道修正の動きがみられる。
カテゴリー 金融資本市場
2025年12月24日
金利差から乖離したドル円相場に関する考察
内田稔 高千穂大学商学部教授
 為替相場の分析において、金利差は重要な手掛かりである。しかし、2025年半ば以降、ドル円は日米金利差と逆行して上昇しており、乖離も拡大している。ただ、ドルは複数の要因から下押し圧力を受けており、この金利差とドル円の乖離は主に円安によるものと考えられる。円安の背景に、大幅なマイナス圏にとどまっている実質金利と財政悪化を懸念したタームプレミアムの拡大が挙げられる。こうした円安からの脱却には、日銀の追加利上げとインフレの収束による実質金利の上昇や日銀の量の正常化ペースの鈍化によるタームプレミアム拡大の抑制などが考えられる。
カテゴリー 金融資本市場
2025年12月10日
「護送船団方式」の医療に終止符を
伊藤由希子 慶應義塾大学大学院商学研究科教授
 今月下旬、来年度の診療報酬改定改定率が、年末の予算編成過程に合わせて決定される。加えて、先月下旬には補正予算として「医療・介護等支援パッケージ」1.4兆円が示されている。いずれも政策の中核となるのは、「医療機関等が資金繰り悪化等により、必要な医療サービスが継続できない事態は避けなければならない」(12月8日の診療報酬改定の基本方針案)という考えである。筆者もまた「必要な医療」を国が守ること自体に異論はない。しかし、肝心な「必要な医療」が何かを定めぬまま、全ての医療機関を同じように扱うことになる診療報酬単価の改定や、1床あたり20万円といった一律の支援は、かつての金融機関で見られた護送船団方式そのものだ。
カテゴリー 金融資本市場
2025年11月26日
トランプ政権下で進む米国の暗号資産規制の転換
大崎貞和 野村総合研究所主席研究員
 米国では、ビットコインなどの暗号資産の取引を証券法によって規制するSECの強硬な姿勢が業界の強い反発を呼んできた。第二期トランプ政権は、そうした政策を否定し、米国を暗号資産分野における世界の首都にするとして、SECによる規制の大幅な転換と法整備を進めている。
カテゴリー 金融資本市場
2025年11月12日
デジタル通貨とこれからの金融インフラ
山岡浩巳 フューチャー取締役グループCSO&CLO、デジタル通貨フォーラム座長
 「デジタル通貨」とは一般に、ブロックチェーン・分散台帳技術により「トークン化」された、価値が安定的な支払手段を指す。具体的には、①中央銀行の債務である「中央銀行デジタル通貨」、②裏付け資産によって暗号資産の価値安定を図る「ステーブルコイン」、③進化型の銀行預金である「トークン化預金」がある。100を超える企業や金融機関で構成されるデジタル通貨フォーラムでは、銀行による進化型預金の発行を提言した。この提言に基づく円建てトークン化預金「DCJPY」は、昨年から既にGMOあおぞらネット銀行が発行しているほか、本年9月にはゆうちょ銀行とSBI新生銀行が今後発行を予定または導入検討中である旨を公表している。
カテゴリー 金融資本市場
2025年10月29日
CBOEジャパン撤退の意味
森本学 日本証券経済研究所 理事長
 この8月末をもって、CBOEジャパンは日本におけるPTS業務を終了した。CBOE(シカゴ・オプション取引所)は、言うまでもなく米国三大取引所グループの一つであり、2021年に買収により日本に進出して以来、その事業展開は注目されてきた。この予想外に早いCBOE撤退(これにより日本に独立系PTSは無くなった)の背景には、現在、日本で急速に進む大手リテール証券の株式取引執行の内部化(インターナライゼーション)の動きがある。本稿では、このような最近の株式市場の動きに焦点を当てるとともに、そのインプリケーションについて私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2025年10月22日
サナエノミクスの行方
木野内栄治 大和証券チーフテクニカルアナリスト兼テーマリサーチ担当ストラテジスト
 今後の経済政策はどうなっていくのだろうか。アベノミクスが日銀の協力で成し得た面が強かったことに対し、今後の経済政策は財務省の協力によって成し得ることになると見る。もちろん、財務省が財政積極政策に対し、自発的かつ前向きに協力する訳ではないだろう。しかし、半ば義務的な支出の増加によって、結果的に今後も積極財政と同等の支出となる可能性が高い。その帰着として、公的債務残高/名目GDP比率の改善が継続し、財政の健全化が進む可能性が高いと計算できる。こうした社会実験を経ることで、「健全な財政の確保」との財務省設置法上の目的に対する有権解釈が、税率を闇雲に上げることではなく、最大税収を得られる最適税率を探ることに変わる蓋然性が高い。最終的には、今後の経済政策には財政当局が協力し、日本経済や市場を繁栄に導くことになると考えられる。
カテゴリー 金融資本市場