二次利用について
2023年6月28日
シリコンバレーバンク破綻が照らすバーゼルの彼方
野崎浩成 東洋大学 教授
CFA Institute(米国アナリスト協会)で財務報告部門を率いるサンディ・ピーターズ氏が「The SVB Collapse: FASB Should Eliminate “Hide-Till-Maturity” Accounting」というコラムを書いている。満期保有目的有価証券(Held-To-Maturity Securities = HTM Securities)を揶揄し「満期まで隠す」とした機知に富んだ表現である。この期に及んでは、Held-Till-Muddle(混乱)やHeld-Till-Malfunction(故障)などを充ててもよいかもしれない。
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2023年6月21日
最悪のデフォルト・ユニゾ社債の教訓
森本学 日本証券業協会 副会長
ユニゾHDの破綻劇について、報道では、メインバンクのみずほ銀行が早逃げする一方地銀が逃げ遅れたという見方や、元社長の個人的怨念などに関心が集まっている。しかし、本件の最大の被害者はユニゾ債の保有者であり、それら社債権者が不本意な経過により多くの損失を負担させられたところに、この破綻劇の特異性がある。本稿では、ユニゾ債のデフォルトへの過程を批判的に検証するとともに、わが国において低格付け債の信頼性を回復するためにどの様な改善策が求められるか、について私見を述べることとしたい。
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2023年6月7日
TOB・大量保有報告制度の見直しに向けて
大崎貞和 野村総合研究所 主席研究員
2021年から22年にかけて敵対的企業買収の試みと対象会社による買収防衛策の導入・発動をめぐる法的紛争が相次いだことなどを背景に、金融審議会でTOB・大量保有報告制度の見直しが検討されることになった。この見直しでは、①企業買収ルールに「世界標準」は存在しないこと、②TOB・大量保有報告制度と買収防衛策規制を総体でとらえて攻守のバランスを図ること、③買収者となり得るのは投資ファンド等だけでなく事業会社でもあること、に留意した検討が求められる。
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2023年4月26日
新NISAの何が問題なのか
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
岸田文雄内閣の目玉政策の1つとして、現行の少額投資非課税制度(NISA)が大幅拡充され、2024年から新NISAとしてスタートすることになった。しかし、筆者はこの優遇税制には賛成できない。国民の資産運用の選択に対して中立ではないうえに、細かな制度設計がまずく、選択できる商品の幅が狭かったり、特定の業者だけがメリットを享受できたりする仕組みになっているからだ。
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2023年4月12日
PBR1倍割れの上場会社への対応について
池田唯一 大和総研 常務理事
日本の上場会社の約半数がPBR(株価純資産倍率)1倍割れとなっている状況を受け、東京証券取引所(東証)は、継続的にPBRが1倍を割っている上場会社に対して、改善に向けた方針などの開示を強く要請していくとの方針を示している。日本企業のPBRが欧米企業のそれに比べて見劣りがするとされる中で、上場会社のPBRの改善を図りたいという東証の意図は分かるが、果たして今回の措置は有効にその機能を発揮するのか。PBRは、以前から言われてきたROE(自己資本利益率)とは異なり、上場会社が自助努力で直接、コントロールできる指標ではない。また、一口にPBR1倍割れと言っても、そこには業種全体の置かれた状況や規制環境など様々な要因が絡み合っている。さらに、PBRは一定の会計ルールに従って計算された純資産額から導出される数字であり、1倍という水準に絶対的な意味を持たせることには慎重な判断が求められる。これらを踏まえ、今回の措置の有効性について検討を加える。
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2023年3月29日
今日の証券市場の論点―3.IPO制度(下)
森本学 日本証券業協会 副会長
(上)では、我が国のIPO制度が、過去の様々な出来事や指摘を受けて変遷してきたことを振り返った。(下)では、今回のIPO制度を巡る議論・検討のどこが、従来の繰り返しでは無い新しい点なのかを論じた上で、今後のIPO市場のあるべき姿について私見を述べることとしたい。
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2023年3月22日
シリコンバレー銀から学ぶこと
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
米欧で銀行の経営危機が相次いで表面化し、発端となった米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻は、話題としては後景に退きつつあるが、米国のスタートアップエコシステムを支えてきたSVBのビジネスモデルに大きな問題があったわけではない。破綻の要因を探ると、過去3年、金融環境が緩和から引き締めへ急激に転換するなかで、スタートアップの資金調達環境が大きく変わり、銀行のALM(資産・負債の総合管理)上の判断ミスを招いていたことがわかる。経営者保証に頼らない融資への模索が続く日本の銀行も、SVBの失敗からだけではなく、ユニークなビジネスモデルから学べることは多いのではないだろうか。
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2023年3月8日
今日の証券市場の論点―3.IPO制度(上)
森本学 日本証券業協会 副会長
一昨年夏、政府はその成長戦略において「公開価格の設定が低すぎるため、スタートアップの資金調達が不十分になっている」として、公開価格設定プロセスの見直しを求めた。これを受けて日証協のWGで検討が行われ、そこで取りまとめられた改善策が、現在、順次実施に移されている。 この公開価格の設定方法を含むIPO制度については、過去何度も問題点が指摘され制度改正が行われてきたが、一向に本質的解決に至らず、似たような議論・検討が繰り返されてきた様に見える。果たして今回は違うのだろうか? 筆者は、この問題の発端となったリクルート事件当時、偶々事案処理を担当していた。本稿では、その個人的体験を含め、IPO制度に関するこれまでの議論・検討を振り返るとともに、今回の改善策及び今後の目指すべき方向性について私見を述べることとしたい。
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2023年2月8日
劣化する日本企業の競争力
中島厚志 新潟県立大学国際経済学部 教授
他の主要先進国とは逆に、日本の輸出物価の上昇率は輸入物価上昇率を長年下回っており、売値を上げる付加価値創造力やイノベーションが欧米主要国より乏しいように見える。背景には国内での設備投資の不足があり、人材投資の不足もイノベーション力不足に寄与している。20年あまりのモノとヒトへの投資不足を挽回するのは容易ではないが、エネルギー危機を機にオイルショック時の日本のように産業構造転換を強力に推進しているEUに倣い、日本も円安と経済安全保障強化につながる地政学的リスクの高まりを好機として、最大限ヒトとモノへの投資に傾注することがイノベーション力と産業競争力挽回のバネとなる。
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2022年11月2日
わが国金融資本市場の地盤低下を打破する3つの視点
内田和人 エムエスティ保険サービス株式会社 代表取締役会長
リーマン危機においては、わが国金融資本市場の頑健性が際立った。それ以前に2度の金融危機(1997年~98年、2003年)を経て既に金融機関の破綻処理が進み、財務の健全性とセイフティネットが十分に担保されていたからである。しかし、その後の金融資本市場の歩みを欧米と比較すると、金融技術の発展や市場整備の強化という点で劣後し、とりわけポストコロナ禍のレジリエンス(回復力)を主要な金融プロダクトのレベニュープール(市場規模)でみると著しく低下している。わが国金融資本市場の地盤低下を打破する3つの視点として、①非上場株式取引の活性化、②社債市場の機能強化、③デリバティブ取引拡大に向けた環境整備、を取り上げ私見を述べたい。
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