二次利用について
2022年11月2日
わが国金融資本市場の地盤低下を打破する3つの視点
内田和人 エムエスティ保険サービス株式会社 代表取締役会長
リーマン危機においては、わが国金融資本市場の頑健性が際立った。それ以前に2度の金融危機(1997年~98年、2003年)を経て既に金融機関の破綻処理が進み、財務の健全性とセイフティネットが十分に担保されていたからである。しかし、その後の金融資本市場の歩みを欧米と比較すると、金融技術の発展や市場整備の強化という点で劣後し、とりわけポストコロナ禍のレジリエンス(回復力)を主要な金融プロダクトのレベニュープール(市場規模)でみると著しく低下している。わが国金融資本市場の地盤低下を打破する3つの視点として、①非上場株式取引の活性化、②社債市場の機能強化、③デリバティブ取引拡大に向けた環境整備、を取り上げ私見を述べたい。
カテゴリー 金融資本市場
2022年10月19日
迫られる金融政策の転換
奥村洋彦 学習院大学 名誉教授
現行の超金融緩和政策は、当初の目標を達成出来ないまま10年が経過しようとしている。長期にわたる市場への人為的介入は、既に指摘がなされているように多くの副作用を発生させているが、とりわけ、政府債務残高の突出する膨張を招来する等資源配分を乱し、大幅な円安が日本経済の国際的プレゼンスを急落させる等異常さが目立ってきている。その拠って来る根因は、依拠するモデルが「リスク」だけを採り入れ「不確実性」を採り入れない現実に適合しないものであり、また、預金金利をゼロにしたままでの物価上昇が、出し手の個人の実質預金残高を減少させ、借り手の政府へ、数十兆円もの巨額の所得移転を生じさせていることにある。市場メカニズムの再生に向け政策転換が急務となってきている。
カテゴリー 金融資本市場
2022年8月23日
リスクマネジメントと市場インフラ
中島敬雄 元DIAMアセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)株式会社 代表取締役社長
世界は40年振りに本格的なインフレ局面を迎えようとしている。 銀行のALMにとって、インフレに起因する金利上昇は最も大事なリスクマネジメントの場面だ。この40年の間に、”金融の市場化”は急速に進み、市場の規模は拡大し、質も著しく向上した。その中にあって、銀行は、自らのリスク・プロファイルを巧みに変化させることにより、新しい市場環境に適合する術(すべ)を身につけてきたのである
カテゴリー 金融資本市場
2022年8月9日
今日の証券市場の論点―2.社債管理(下)
森本学 日本証券業協会 副会長
(上)では、我が国独特な社債受託制度と起債調整が、どのような背景と経緯で形成されてきたかをみた。(下)では、それらの制度が戦後も長らく続いた後、新しい社債管理制度が導入されたものの、それは必ずしも社債市場において期待された役割を果たしていないことから、社債管理制度の今後のあるべき姿について私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2022年7月26日
今日の証券市場の論点―2.社債管理(上)
森本学 日本証券業協会 副会長
日本の社債市場についてよく語られる「低格付け債が発行されない」、「個人向け債が少ない」という課題は、社債管理制度がうまく機能していないことが原因の一つとされている。それでは、この社債管理の制度・慣行はどのように形成され、いま社債市場全体に対してどのように作用しているのだろうか? 本稿では、日本の社債管理制度の創設、展開を振り返りつつ、上記のような問題へのインプリケーションを探ることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2022年6月28日
投資信託の販売手数料に関する一考察(2)
大久保良夫 日本投資者保護基金 理事長
投資運用サービスは様々な業務の組合せで成り立っており、インベストメント・チェーンにかかわる者のそれぞれが提供するサービス内容や責任分担が明確であることがその健全な発展のために不可欠である。特に投資信託は幅広い投資家の参加を前提としており、その顧客サービスには多大な費用も生じるので、これがどのように賄われるかは投資家にとっても業界にとっても大きな関心事である。
我が国では投資信託に係る費用の水準は自由に決められる仕組みとなっているが、その販売手数料については個々のファンドについて上限を目論見書に記載することが求められている。しかし販売手数料は販売会社自身が顧客に提供するサービスの内容に応じた形で決めて周知するのが適当であり、運用会社の作成する目論見書への上限記載規制は廃止すべきではないか。国際的な議論も踏まえ、筆者の個人的な意見を述べたい。
カテゴリー 金融資本市場
2022年6月14日
投資信託の販売手数料に関する一考察(1)
大久保良夫 日本投資者保護基金 理事長
投資運用サービスは様々な業務の組合せで成り立っており、インベストメント・チェーンにかかわる者のそれぞれが提供するサービス内容や責任分担が明確であることがその健全な発展のために不可欠である。特に投資信託は幅広い投資家の参加を前提としており、その顧客サービスには多大な費用も生じるので、これがどのように賄われるかは投資家にとっても業界にとっても大きな関心事である。
我が国では投資信託に係る費用の水準は自由に決められる仕組みとなっているが、その販売手数料については個々のファンドについて上限を目論見書に記載することが求められている。しかし販売手数料は販売会社自身が顧客に提供するサービスの内容に応じた形で決めて周知するのが適当であり、運用会社の作成する目論見書への上限記載規制は廃止すべきではないか。国際的な議論も踏まえ、筆者の個人的な意見を述べたい。
カテゴリー 金融資本市場
2022年5月30日
米国投資家から見た日本の部分TOBにおける諸問題
Toby Rodes CIO/Co-Founder, Kaname Capital
槙野 尚 Associate Partner, Kaname Capital
近年親子上場への批判が高まりつつあるが、親子上場を生み出す部分TOBについてはあまり議論されていない。しかし部分TOBにおいても完全子会社化と同様に少数株主を保護するべき必要性があり、こうした制度的対応がなされていないことは海外投資家が日本市場をディスカウントする一因となっている。ここでは特に米国投資家の視点として、SEC規制との関連で米国居住株主の除外とショートテンダーの容認という二つの問題を指摘してみたい。
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2022年5月16日
新たな資本主義での上場会社の在り方~東芝のケーススタディ
若林 秀樹 東京理科大学大学院教授
新しい資本主義を考える上で、アクティビスト、国家安全保障を巡る政府の関与、非公開化是非など、直近の東芝問題は、良いケーススタディとなる。混乱の一因は指名委員会等設置会社というガバナンス体制にある。社外中心、特に一部の短期株主による構成メンバーが経営を決め、社内は執行する体制では、日本の競争力低下になるだろう。長期保有株主を優先し取締役会も政府や組合、近隣住民などマルチステークホルダーを意識、経営のKPI(重要業績評価指標)も数値の質を考慮すべきだ。非公開化のデメリットは、ガバナンスの不透明化、事業バラ売りリスクでプラットフォーマー型ビジネスが難しく、ファンドと会社の経営認識の時間軸差問題、従業員モラル低下が懸念されることだ。
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2022年4月26日
地銀の有価証券運用における問題点
高橋 克英 株式会社マリブジャパン代表取締役
地銀が保有する外債の評価損が拡大している。このまま金利上昇傾向が続けば、業績への悪影響も懸念されている。多くの地銀が、「適切なリスク管理を前提に、分散投資を基本とし、安定した流動性と収益を確保する」としているが、本当にそんな施策は、実現可能なのだろうか。有価証券運用の外部委託も進むなか、地銀の有価証券運用の問題は、突き詰めてみると経営・組織・人事制度の問題ともいえる。マーケットは予測不能、リスクとリターンはトレードオフという前提のもと、地銀は有価証券運用においていかに収益を確保するのかを論じたい。
カテゴリー 金融資本市場