2023年9月13日 | |
資産運用業改革に大切な視点 | |
澤上篤人 さわかみホールディングス 代表取締役 | |
資産運用立国ということで金融界は沸き上がっているが、どこまでその準備態勢と覚悟があるのか、はなはだ疑問。資産運用ビジネスは10年20年30年という時間軸で運用責任を負うもの。金融業界の販売して儲けて終わりの感覚で、資産運用ビジネスを云々するのは無責任に過ぎるし、機関投資家も一般生活者の資産形成に資する運用商品などもっていない。一般生活者が安心し信頼して資産形成を託せる投信会社を増やし、各々の実績をもとに個人が信頼する投信会社に預貯金マネーを託すという流れを作ることが肝要。それには、本格的な長期投資運用への挑戦者を輩出させることと、投信の顧客口座管理全般を一括して引き受けるプラットホーム設立が先決。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2023年8月30日 | |
資産運用立国実現に向けた運用会社の課題 | |
堀江貞之 東洋大学国際学部・非常勤講師 堀江リサーチ&アドバイザリー代表取締役 | |
資産運用立国に向けて、運用会社には2つの大きな課題がある。第一に「顧客最優先」を自分事として実践すること。第二は運用能力の強化である。顧客最優先をかけ声倒れに終わらせず実践するには、顧客最優先の企業文化を醸成することが不可欠である。そのためには、利害関係者の優先順位を明確化し顧客を最上位に置くこと、さらに利益相反管理規定を厳格化し、独立取締役が実施状況をモニタリングする必要がある。運用能力の強化には、近道はなく王道をゆくべきある。王道とは、長期視点から企業価値を評価し割安な優良企業に集中して投資する投資戦略を貫くことであり、運用能力強化に至る正道はここにある。 | |
カテゴリー 金融資本市場 |
2023年8月16日 | |
構造的円安論を再考する | |
高島修 シティグループ証券 外国為替本部 チーフFXストラテジスト | |
昨年、対米ドルで150円を超えた円安の背景には日本国内外での構造変化がある。日本の高齢化、生産性や輸出競争力の低下、グローバル化などがそれであり、貿易収支を主体に国際収支を悪化させやすくしている。資本勘定においても、テクノロジーの進化に伴って、本邦投資家のホーム・バイアスが低下するなどして、海外投資が増えやすくなっている。実質実効円相場が50年ぶりの低水準に下落する中、「悪い円安」論なども出てきているが、筆者はこの間の円安を長期的には自然なことだと捉えている。とは言え、購買力平価などで見て円安にやや行き過ぎ感があることも事実で、数年単位で考えれば、ドル円は120円を下回るような調整となってもおかしくないように思われる。今回のドル円に限った話ではないが、構造論と循環的な相場動向は切り離して考える必要がある。 | |
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2023年8月2日 | |
監査調書の「差し込み」事案から見えてくるもの | |
池田唯一 大和総研 常務理事 | |
2023年に入り、金融庁は、企業の会計監査を行う2つの中小監査法人に対して公認会計士法上の行政処分を行ったが、そこでは、両監査法人が、当局からの検査を受けるに際して、事後的に作成した監査調書を追加的に監査ファイルに差し込んで検査官に提出していたことが明らかになった。監査調書は、実効的な監査を成り立たせるための重要な基盤であり、監査手続を進める中で監査調書を適切に作成していくことには、単に文書の作成・管理といったことを超えた、極めて重要な意味がある。これらの事案を受けて、日本公認会計士協会では、会員に対して、監査調書の作成・保存に関する体制の整備状況の確認やその適切な運用状況の確保を求める通知文の発出などを行っているが、問題の根絶に向けては、なお多くの取組み課題が残されている。 | |
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2023年7月19日 | |
のれんの会計処理 日本における戦略的議論の必要性 | |
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ | |
IASB(国際会計基準審議会)は2022年11月の理事会において、企業買収(M&A)における買収価額と買収対象企業の純資産との差額である「のれん」の事後測定について、規則的償却をせずに減損処理のみとする現行の処理方法を維持することを決定した。のれんについて、日本基準では償却をするがIFRS会計基準(国際会計基準)では償却は行わないので、買収後利益に大きな見かけ上の違いがあり、どちらが適切なのかの議論が続いていた。日本としては、国際的な会計が日本の会計に合わせて修正することを期待していたが、当面の間それが実現しないことが確定した。この点について、現在ボールは日本側に投げ返されていると認識すべきであり、早急に戦略的な議論を開始する必要性がある。 | |
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2023年7月5日 | |
生物多様性を投資機会として捉える | |
中空麻奈 BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長 | |
生物多様性という言葉自体は多くの読者がご存知であろう。すでに聞き慣れた言葉になりつつある。2023年のESG投資の代表的な分野であることは確実でもある。しかし、その一方で、この生物多様性という漠としたものにどう向き合うかははっきりしない。最近の取り組みを紹介しながら、生物多様性の投資機会を考えてみよう。 | |
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2023年6月28日 | |
シリコンバレーバンク破綻が照らすバーゼルの彼方 | |
野崎浩成 東洋大学 教授 | |
CFA Institute(米国アナリスト協会)で財務報告部門を率いるサンディ・ピーターズ氏が「The SVB Collapse: FASB Should Eliminate “Hide-Till-Maturity” Accounting」というコラムを書いているⅰ。満期保有目的有価証券(Held-To-Maturity Securities = HTM Securities)を揶揄し「満期まで隠す」とした機知に富んだ表現である。この期に及んでは、Held-Till-Muddle(混乱)やHeld-Till-Malfunction(故障)などを充ててもよいかもしれない。 | |
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2023年6月21日 | |
最悪のデフォルト・ユニゾ社債の教訓 | |
森本学 日本証券業協会 副会長 | |
ユニゾHDの破綻劇について、報道では、メインバンクのみずほ銀行が早逃げする一方地銀が逃げ遅れたという見方や、元社長の個人的怨念などに関心が集まっている。しかし、本件の最大の被害者はユニゾ債の保有者であり、それら社債権者が不本意な経過により多くの損失を負担させられたところに、この破綻劇の特異性がある。本稿では、ユニゾ債のデフォルトへの過程を批判的に検証するとともに、わが国において低格付け債の信頼性を回復するためにどの様な改善策が求められるか、について私見を述べることとしたい。 | |
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2023年6月7日 | |
TOB・大量保有報告制度の見直しに向けて | |
大崎貞和 野村総合研究所 主席研究員 | |
2021年から22年にかけて敵対的企業買収の試みと対象会社による買収防衛策の導入・発動をめぐる法的紛争が相次いだことなどを背景に、金融審議会でTOB・大量保有報告制度の見直しが検討されることになった。この見直しでは、①企業買収ルールに「世界標準」は存在しないこと、②TOB・大量保有報告制度と買収防衛策規制を総体でとらえて攻守のバランスを図ること、③買収者となり得るのは投資ファンド等だけでなく事業会社でもあること、に留意した検討が求められる。 | |
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2023年4月26日 | |
新NISAの何が問題なのか | |
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆 | |
岸田文雄内閣の目玉政策の1つとして、現行の少額投資非課税制度(NISA)が大幅拡充され、2024年から新NISAとしてスタートすることになった。しかし、筆者はこの優遇税制には賛成できない。国民の資産運用の選択に対して中立ではないうえに、細かな制度設計がまずく、選択できる商品の幅が狭かったり、特定の業者だけがメリットを享受できたりする仕組みになっているからだ。 | |
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