二次利用について
2023年6月21日
最悪のデフォルト・ユニゾ社債の教訓
森本学 日本証券業協会 副会長
ユニゾHDの破綻劇について、報道では、メインバンクのみずほ銀行が早逃げする一方地銀が逃げ遅れたという見方や、元社長の個人的怨念などに関心が集まっている。しかし、本件の最大の被害者はユニゾ債の保有者であり、それら社債権者が不本意な経過により多くの損失を負担させられたところに、この破綻劇の特異性がある。本稿では、ユニゾ債のデフォルトへの過程を批判的に検証するとともに、わが国において低格付け債の信頼性を回復するためにどの様な改善策が求められるか、について私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2023年6月14日
一連のクレジットイベントからAT1債を再考する
中空麻奈 BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部 副会長
2023年が始まり、米国金融機関の経営破綻が相次いでいる。3月8日にシルバーゲートが自主的な清算を選んだことを皮切りに、10日シリコンバレー銀行、12日シグネーチャー銀行、5月1日ファーストリパブリック銀行が相次ぎ経営破綻したが、これで収束したと言えるかも不透明な状態で危うい。米国の金融機関破綻については、これまでの問題とは異なる新しい金融システム不安の萌芽なのだと整理することが可能である。ALMの不一致という、相当初歩的なミスもあったが、仮想通貨やベンチャーキャピタルなどリスクマネーの供給先に疑義が出たことなどは新しいリスクであると言えなくもない。
カテゴリー 金融政策
2023年6月7日
TOB・大量保有報告制度の見直しに向けて
大崎貞和 野村総合研究所 主席研究員
2021年から22年にかけて敵対的企業買収の試みと対象会社による買収防衛策の導入・発動をめぐる法的紛争が相次いだことなどを背景に、金融審議会でTOB・大量保有報告制度の見直しが検討されることになった。この見直しでは、①企業買収ルールに「世界標準」は存在しないこと、②TOB・大量保有報告制度と買収防衛策規制を総体でとらえて攻守のバランスを図ること、③買収者となり得るのは投資ファンド等だけでなく事業会社でもあること、に留意した検討が求められる。
カテゴリー 金融資本市場
2023年5月31日
金融政策と銀行株
丹羽孝一 シティグループ証券 アナリスト
金融政策の変更が銀行株に与える影響には光と影がある。メリットは利益率の拡大、貸出残高の拡大、バリュエーションの上昇、デメリットは既契約の経済価値減少である。今後の日銀の金融政策の正常化は、銀行株すべての上昇に繋がるわけではなく、むしろ、企業間格差が拡大するとみる。外部環境不透明な中、各銀行には財務健全性を維持・確保し、基盤強靭化の投資を加速し、他社にはない独自性の発揮すること、が期待される。来るべきインフレの時代で求められる銀行経営の判断基準はこれまでのデフレ局面とは異なる点が多く、従来以上に柔軟かつ機動的な判断が求められそうだ。
カテゴリー 金融政策
2023年5月17日
中国の2023年の経済政策と当面の経済状況
田中修 拓殖大学大学院経済学研究科 客員教授
3月の中国全国人民代表大会は、2023年のGDP実質成長率の目標を「5%前後」と設定した。このため、財政政策は「力を加え、効果を高め」、金融政策は「精確・有力」でなければならないとされ、この成長目標実現をサポートすることになった。しかし、他方で財政の持続可能性・債務リスクの防止とのバランスも意識されている。1-3月期の成長率は4.5%と年間目標を下回った。しかし、これは中国の四半期成長率が、先進国の前期比成長率ではなく、前年同期比成長率を採用しているため、実際の経済回復が十分に反映されなかった面がある。個別指標をみると経済の回復は明らかであり、年間目標の達成は可能であるが、24年以降の5%成長達成は不透明である。
カテゴリー 金融政策
2023年4月26日
新NISAの何が問題なのか
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
岸田文雄内閣の目玉政策の1つとして、現行の少額投資非課税制度(NISA)が大幅拡充され、2024年から新NISAとしてスタートすることになった。しかし、筆者はこの優遇税制には賛成できない。国民の資産運用の選択に対して中立ではないうえに、細かな制度設計がまずく、選択できる商品の幅が狭かったり、特定の業者だけがメリットを享受できたりする仕組みになっているからだ。
カテゴリー 金融資本市場
2023年4月12日
PBR1倍割れの上場会社への対応について
池田唯一 大和総研 常務理事
日本の上場会社の約半数がPBR(株価純資産倍率)1倍割れとなっている状況を受け、東京証券取引所(東証)は、継続的にPBRが1倍を割っている上場会社に対して、改善に向けた方針などの開示を強く要請していくとの方針を示している。日本企業のPBRが欧米企業のそれに比べて見劣りがするとされる中で、上場会社のPBRの改善を図りたいという東証の意図は分かるが、果たして今回の措置は有効にその機能を発揮するのか。PBRは、以前から言われてきたROE(自己資本利益率)とは異なり、上場会社が自助努力で直接、コントロールできる指標ではない。また、一口にPBR1倍割れと言っても、そこには業種全体の置かれた状況や規制環境など様々な要因が絡み合っている。さらに、PBRは一定の会計ルールに従って計算された純資産額から導出される数字であり、1倍という水準に絶対的な意味を持たせることには慎重な判断が求められる。これらを踏まえ、今回の措置の有効性について検討を加える。
カテゴリー 金融資本市場
2023年3月29日
今日の証券市場の論点―3.IPO制度(下)
森本学 日本証券業協会 副会長
(上)では、我が国のIPO制度が、過去の様々な出来事や指摘を受けて変遷してきたことを振り返った。(下)では、今回のIPO制度を巡る議論・検討のどこが、従来の繰り返しでは無い新しい点なのかを論じた上で、今後のIPO市場のあるべき姿について私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2023年3月22日
シリコンバレー銀から学ぶこと
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
米欧で銀行の経営危機が相次いで表面化し、発端となった米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻は、話題としては後景に退きつつあるが、米国のスタートアップエコシステムを支えてきたSVBのビジネスモデルに大きな問題があったわけではない。破綻の要因を探ると、過去3年、金融環境が緩和から引き締めへ急激に転換するなかで、スタートアップの資金調達環境が大きく変わり、銀行のALM(資産・負債の総合管理)上の判断ミスを招いていたことがわかる。経営者保証に頼らない融資への模索が続く日本の銀行も、SVBの失敗からだけではなく、ユニークなビジネスモデルから学べることは多いのではないだろうか。
カテゴリー 金融資本市場
2023年3月8日
今日の証券市場の論点―3.IPO制度(上)
森本学 日本証券業協会 副会長
一昨年夏、政府はその成長戦略において「公開価格の設定が低すぎるため、スタートアップの資金調達が不十分になっている」として、公開価格設定プロセスの見直しを求めた。これを受けて日証協のWGで検討が行われ、そこで取りまとめられた改善策が、現在、順次実施に移されている。 この公開価格の設定方法を含むIPO制度については、過去何度も問題点が指摘され制度改正が行われてきたが、一向に本質的解決に至らず、似たような議論・検討が繰り返されてきた様に見える。果たして今回は違うのだろうか? 筆者は、この問題の発端となったリクルート事件当時、偶々事案処理を担当していた。本稿では、その個人的体験を含め、IPO制度に関するこれまでの議論・検討を振り返るとともに、今回の改善策及び今後の目指すべき方向性について私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場