二次利用について
2023年2月22日
金融商品取引における顧客資産の保護の意義
大久保良夫 日本投資者保護基金 理事長
米国で暗号資産交換業を行っていた大手業者が破綻し、顧客資産保護に関する規制のあり方に新たな関心が高まっている。暗号資産の規制については、米国よりも日本の方が先行しており、日本においては、暗号資産についても有価証券等を扱う金融商品取引業者(以下「金商業者」)の規制に類似した制度が構築されている。
顧客資産の預託を受けている取引業者等が破綻した場合の顧客資産の保護制度については、2008年以降の世界的な金融危機後の国際的金融改革論議の中でも様々な議論がなされるなど、国際的にも大きな関心事となっている。本稿では、我が国の証券分野における制度を中心に、金融商品取引における顧客資産保護の現状と課題を、概観してみたい。意見にわたる部分は個人のものであり、筆者の関与する組織のものではない。
カテゴリー 法律
2023年2月8日
劣化する日本企業の競争力
中島厚志 新潟県立大学国際経済学部 教授
他の主要先進国とは逆に、日本の輸出物価の上昇率は輸入物価上昇率を長年下回っており、売値を上げる付加価値創造力やイノベーションが欧米主要国より乏しいように見える。背景には国内での設備投資の不足があり、人材投資の不足もイノベーション力不足に寄与している。20年あまりのモノとヒトへの投資不足を挽回するのは容易ではないが、エネルギー危機を機にオイルショック時の日本のように産業構造転換を強力に推進しているEUに倣い、日本も円安と経済安全保障強化につながる地政学的リスクの高まりを好機として、最大限ヒトとモノへの投資に傾注することがイノベーション力と産業競争力挽回のバネとなる。
カテゴリー 金融資本市場
2023年1月25日
米国からみた暗号資産市場の現状と今後について
湯山智教 ジョージタウン大学 客員研究員
FTX破綻を受けて暗号資産規制強化の方向に向かうと見られがちだが、足元の米国における議論を見る限り、必ずしも一筋縄ではいかないようだ。議会上院ヒアリングの議論が典型であり、主な論点は、暗号資産は証券なのかコモディティなのか、主要規制当局はSECかCFTCにすべきか、といった従来からの論点に加え、さらにコンピューターコードが金融類似機能を担うDeFi(分散型金融)はイノベーションの源泉なのか否か、コードをどのように制裁すべきか、といった点だ。足元でも暗号資産について懐疑的にみるものと、擁護すべきと考えるもので見方が真っ二つに割れており、まさにイノベーションと投資家保護というジレンマの下でどう対応するか、その行方が注目される。
カテゴリー 金融政策
2023年1月11日
資産所得倍増プランについて
大崎貞和 野村総合研究所 主席研究員
2022年末に策定された政府の資産所得倍増プランは、長年にわたって叫ばれてきたものの一向に現実化していない家計金融資産の「貯蓄から投資へ」のシフトを改めて促すことを狙いとする政策パッケージである。その内容は多岐にわたるが、とりわけNISAの拡充などの税制上の措置や中立的アドバイスの提供を促すための仕組みの創設といった内容が注目される。もっとも、リスク資産へのシフトが現実化したとしても、その投資先が日本企業であるという必然性は疑問である。日本国内で完結する「成長と資産所得の好循環」が期待できるという前提は疑ってみることも必要だろう。
カテゴリー 金融政策
2022年12月14日
IFRS会計基準任意適用の意義とその評価(下)
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ
日本が2009年にIFRS(国際財務報告基準)会計基準の任意適用を開始してから10年以上が経過し、日本においてIFRS会計基準の任意適用を行う企業は、JPX日経インデックス400対象銘柄の時価総額ベースで全時価総額の半数以上を占めるに至っている。IFRSを策定するIASB(国際会計基準審議会)の母体であるIFRS財団は、世界の主要な市場でIFRS会計基準が強制適用されることを目標としており、日本においても一時期IFRS会計基準の強制適用を検討していた。このため、日本のIFRS任意適用制度は現時点においても制度として暫定的な位置付けとなったままである。一般に任意適用は強制適用に移行する時期の過渡的なものとみられているが、その意義を正しく評価する時期に来ている。
カテゴリー 金融政策
2022年11月30日
IFRS会計基準任意適用の意義とその評価 (上)
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ
日本が2009年にIFRS(国際財務報告基準)会計基準の任意適用を開始してから10年以上が経過し、日本においてIFRS会計基準の任意適用を行う企業は、JPX日経インデックス400対象銘柄の時価総額ベースで全時価総額の半数以上を占めるに至っている。IFRSを策定するIASB(国際会計基準審議会)の母体であるIFRS財団は、世界の主要な市場でIFRS会計基準が強制適用されることを目標としており、日本においても一時期IFRS会計基準の強制適用を検討していた。このため、日本のIFRS任意適用制度は現時点においても制度として暫定的な位置付けとなったままである。一般に任意適用は強制適用に移行する時期の過渡的なものとみられているが、その意義を正しく評価する時期に来ている。
カテゴリー 金融政策
2022年11月16日
気候関連情報開示の充実-CO2排出量削減策としての有効性
池田唯一 株式会社大和総研 常務理事 
気候関連の企業情報開示の充実に向けて内外で開示ルールの整備が進められている。気候関連情報開示の充実がCO2排出量の削減につながる主たる経路としては、情報の開示を受けて投資家が企業のもたらす外部経済・不経済を内部化して企業評価を行い、それが株価等に反映されることで資源配分の適正化が図られ、企業の排出量削減に向けた行動が促される、といったことが想定される。その場合、開示された情報がどこまで企業評価に織り込まれるのかが重要な問題になるが、日本市場の現況に照らすと、少なくとも当初の段階で企業評価に織り込まれる情報はかなり限られたものになることが危惧される。開示情報が適切に企業評価に反映され、CO2排出量の削減につながっていくためには、2050年のネットゼロに向けた国全体としての具体的な道筋の明確化など、他の施策の追随が不可欠となる。
カテゴリー サステナブルファイナンス
2022年11月2日
わが国金融資本市場の地盤低下を打破する3つの視点
内田和人 エムエスティ保険サービス株式会社 代表取締役会長
リーマン危機においては、わが国金融資本市場の頑健性が際立った。それ以前に2度の金融危機(1997年~98年、2003年)を経て既に金融機関の破綻処理が進み、財務の健全性とセイフティネットが十分に担保されていたからである。しかし、その後の金融資本市場の歩みを欧米と比較すると、金融技術の発展や市場整備の強化という点で劣後し、とりわけポストコロナ禍のレジリエンス(回復力)を主要な金融プロダクトのレベニュープール(市場規模)でみると著しく低下している。わが国金融資本市場の地盤低下を打破する3つの視点として、①非上場株式取引の活性化、②社債市場の機能強化、③デリバティブ取引拡大に向けた環境整備、を取り上げ私見を述べたい。
カテゴリー 金融資本市場
2022年10月19日
迫られる金融政策の転換
奥村洋彦 学習院大学 名誉教授
現行の超金融緩和政策は、当初の目標を達成出来ないまま10年が経過しようとしている。長期にわたる市場への人為的介入は、既に指摘がなされているように多くの副作用を発生させているが、とりわけ、政府債務残高の突出する膨張を招来する等資源配分を乱し、大幅な円安が日本経済の国際的プレゼンスを急落させる等異常さが目立ってきている。その拠って来る根因は、依拠するモデルが「リスク」だけを採り入れ「不確実性」を採り入れない現実に適合しないものであり、また、預金金利をゼロにしたままでの物価上昇が、出し手の個人の実質預金残高を減少させ、借り手の政府へ、数十兆円もの巨額の所得移転を生じさせていることにある。市場メカニズムの再生に向け政策転換が急務となってきている。
カテゴリー 金融資本市場
2022年10月5日
サステナビリティ開示の国際潮流
熊谷五郎 みずほ証券 グローバル戦略部産官学連携室・上級研究員
近年、世界の金融資本市場関係者より、サステビリティ関連情報開示の充実、比較可能性の向上を求める声が強まってきた。これを受け、IFRS財団はその傘下に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を発表した。ISSBが開発中のサステナビリティ開示基準は、環境等の企業価値に与える影響に焦点を当てるシングルマテリアリティの考え方に基づく。また、TCFD、SASB、CDSBなど既存のフレームワークを利用しつつ、グローバル・ベースラインとなることを目指している。我が国でも、コーポレートガバナンスコードによりサステナ情報開示が要請される一方、有報に記載欄の新設が決まった。またサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、国内基準開発を担うことになる。
カテゴリー サステナブルファイナンス