二次利用について
2024年4月10日
米国における株式手数料「無料化」のインパクトと日本への示唆
吉永高士 NRIアメリカ 金融・IT研究部門長
米国でチャールズシュワブらの大手ディスカウント証券会社が2019年10月に株式現物、ETF、オプション等のオンライン売買手数料の無料化を行って以来、4年半が経過した。日本においても、2023年に大手ネット証券が株式現物の売買手数料を廃止したこともあり、無料化後から現在に至るまでの米国証券業界や投資家市場の動向に関する本邦金融業界関係者や経営者から筆者への照会も直近では増えている。本稿では、米ディスカウント証券によるオンライン株式手数料等の「無料化」の実態と、それが起きた背景・要因と歴史的経緯、その後に加速しほぼ完遂したディスカウント証券業界の再編、および現在までのリテール証券ビジネス全体のプライシングと収益への影響や個人投資家の動向について概説する。
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2024年3月21日
新リース会計基準の適用延期について
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ
企業会計基準委員会(ASBJ)が改訂を検討しているリース会計基準の適用時期が、当初の見込みよりも遅れるとの記事が日本経済新聞に掲載された。記事によれば、適用時期が遅れるのは、小売業などから異論が噴出し基準作りが終わらないからとされている。今回の基準改訂は、日本基準の国際的整合性のために行われるが、国際会計基準(IFRS)のIFRS第16号「リース」は既に2019年度から適用されているので、日本での適用開始の遅れは、もちろん好ましいことではない。ただ、これはリース会計基準だけの問題ではない。議論の本質は、そもそもわが国の会計基準と国際的な会計基準との整合性のあり方はどうあるべきかという点にあり、その点についてより深い議論が必要である。
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2024年3月6日
急がれる「投資銀行インフラ」の整備
渡邉佳史 ストームハーバー証券 代表取締役社長
東京証券取引所は上場企業の持続的な成長と企業価値向上を実現するための施策を矢継ぎ早に打ち出しており、株式市場の本質的変化につながるものと期待しているが、それを支える本邦の投資銀行機能についても考えたい。時価総額が小さい上場会社は、期待される手数料が十分でないということで主幹事証券からも十分なサポートを受けていないのが現状である。米国では手数料体系が違う投資銀行がその役割を果たしている。本邦ではそのようなプレーヤーが限られており、「投資銀行インフラ」が十分とは言いがたい。上場会社及び運用会社のあり方に関する改革も進んでいる中で、上場会社と資本市場をつなぐ投資銀行機能の充実が今後の日本経済の成長には不可欠と考える。
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2024年2月21日
ネットゼロに向けた金融の挑戦(下)
河野正道 三菱UFJ銀行 顧問
ネットゼロを支援するために必要とされる巨額の資金を供給するために、民間金融機関の様々な努力が国際的な連携のもとではじまっているが、政府の強力なリーダーシップにより、企業などによる信頼性の高いトランジション・プランの策定、トランジション・ファイナンスについてのガイダンスの策定、炭素市場の整備などが、国際的な整合性を確保しつつさらに進むことを期待する。
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2024年2月7日
ネットゼロに向けた金融の挑戦(上)
河野正道 三菱UFJ銀行 顧問
世界各国が温室効果ガスの排出量を削減し、カーボン・ニュートラル(CN)を達成するとともに、続発する被害への対応策を実施することが急務となっているが、そうした中で経済社会全体のCNへの公正で秩序立った移行(just and orderly transition)を金融面から支えていくことが喫緊かつ重要な課題となっている。特に、顧客企業などの脱炭素を資金面からサポートするトランジション・ファイナンスが果たすべき役割は大きい。
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2024年1月24日
TOB・大量保有報告制度等の見直し—待たれる会社法制面の検討
池田唯一 大和総研 常務理事
 金融庁の金融審議会では専門のワーキング・グループ(WG)を設け、公開買付(TOB)制度・大量保有報告制度等のあり方について幅広い検討が行われてきたが、2023年12月にその検討結果がWGの報告書として取りまとめられた。公開買付制度と大量保有報告制度は、企業の買収等に関する証券取引法制の根幹をなすものだが、これらについては2006年に大幅な改正が行われた以降、大きな改正は行われて来なかった。今回の報告書を受けて、金融庁は、次期通常国会に金融商品取引法の改正案を提出すべく法案化の作業を進める方針だ。改正法が成立すれば、18年ぶりのまとまった改正となる。本稿では、報告書に盛り込まれた諸提言のうち、特に制度の骨格に関わると思われるものについて論じる。
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2024年1月11日
GX経済移行債(CT国債)の発行が日本経済回復のトリガーとなりうるか
中空麻奈 BNPパリバ証券
 グリーン・トランスフォーメーション(GX)経済移行債が、クライメート・トランジション(CT)国債として漸く発行されることになった。形式上の発行要件について、まずは概説する。通常の国債との共通点や相違点を考えるが、トランジション・ボンドという立て付けにしたことの功罪も問う。資金調達自体が目標ではないため、この集めた資金をうまく活かせるか、が最大の課題となる。その意味からもCT国債の動向に注意である。さらに、CT国債のポジティブ、ネガティブについてもまとめた。他国対比でどこまで資金をうまく活かし、水素やグリーンスチール、SAFなどの日本の強みを取り込んでいけるか、慎重に見守る必要がある。
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2023年12月6日
新NISAが歪める資産形成
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
少額投資非課税制度(NISA)の大幅な衣替えが目前に迫っている。株式や投資信託の売り手である金融機関にとっては待ちに待った大型税制だが、非課税対象の金融商品が偏り、リバランスがしにくいなど仕組み上の問題はなお多い。資産運用の基本についての教育もしないまま、個人マネーをとにかく動かせばいいといわんばかりのこの政策は、ちょっと乱暴ではないだろうか。
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2023年11月22日
国民には理解し難い「YCCの再修正」
水野温氏
10月の金融政策決定会合では「YCCの再修正」が決定された。主な意見をみると、政策委員会は今後も「YCCの枠組みは維持すべき」との合意形成がある。財政健全化の道筋がみえないためであろう。日銀は長期金利急騰を回避するため、国債買入れ縮小とマイナス金利政策の解除には慎重な姿勢か。ただ、「日銀はインフレ目標を達成しているにもかかわらず、放漫財政を下支えするために、物価高で家計を犠牲にしても金融緩和を継続している」と解釈されると、国民の信頼を失い、「期待に働きかける金融政策」ができなくなる。政府が物価高対策を行い、日銀は大規模緩和を通じて、政府と一緒にデフレ対策を行うユニークなポリシーミックスは、資産インフレや格差拡大を助長しかねない。
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2023年11月8日
YCC柔軟化では国債買入れ額に注目せよ
森本学 日本証券経済研究所 理事長
 日銀は、再びYCCを修正した。昨年12月の本格的YCC柔軟化から数えると既に三度目であり、日銀の苦心が偲ばれる。ただし、これまでのところ豪州準備銀行の様な市場混乱は起こしておらず、報道によれば日銀幹部も市場調節面では手応えを感じている模様である。筆者が接する財務省、金融庁の幹部も「長期金利は日銀がコントロールしているので心配していない(心配なのは為替だ)」と言う者が多い。一方で、この間、日銀の国債買入れ額は著増しており、YCCの金利操作対象である10年債は84%を日銀が保有するという買占め状態に至っている。YCCを柔軟化しているにも拘らず、それを維持するための量的介入はむしろ強化されている訳で、一種のパラドックス(市場関係者にとっては不思議ではないが)が生じている。本稿では、このようなYCC柔軟化の量的側面をどう考えるべきか、さらに、その今後の市場対応へのインプリケーションについて私見を述べることとしたい。
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