二次利用について
2023年8月2日
監査調書の「差し込み」事案から見えてくるもの
池田唯一 大和総研 常務理事
2023年に入り、金融庁は、企業の会計監査を行う2つの中小監査法人に対して公認会計士法上の行政処分を行ったが、そこでは、両監査法人が、当局からの検査を受けるに際して、事後的に作成した監査調書を追加的に監査ファイルに差し込んで検査官に提出していたことが明らかになった。監査調書は、実効的な監査を成り立たせるための重要な基盤であり、監査手続を進める中で監査調書を適切に作成していくことには、単に文書の作成・管理といったことを超えた、極めて重要な意味がある。これらの事案を受けて、日本公認会計士協会では、会員に対して、監査調書の作成・保存に関する体制の整備状況の確認やその適切な運用状況の確保を求める通知文の発出などを行っているが、問題の根絶に向けては、なお多くの取組み課題が残されている。
カテゴリー 金融資本市場
2023年7月19日
のれんの会計処理 日本における戦略的議論の必要性
鶯地隆継 有限責任監査法人トーマツ
IASB(国際会計基準審議会)は2022年11月の理事会において、企業買収(M&A)における買収価額と買収対象企業の純資産との差額である「のれん」の事後測定について、規則的償却をせずに減損処理のみとする現行の処理方法を維持することを決定した。のれんについて、日本基準では償却をするがIFRS会計基準(国際会計基準)では償却は行わないので、買収後利益に大きな見かけ上の違いがあり、どちらが適切なのかの議論が続いていた。日本としては、国際的な会計が日本の会計に合わせて修正することを期待していたが、当面の間それが実現しないことが確定した。この点について、現在ボールは日本側に投げ返されていると認識すべきであり、早急に戦略的な議論を開始する必要性がある。
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2023年7月5日
生物多様性を投資機会として捉える
中空麻奈 BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
生物多様性という言葉自体は多くの読者がご存知であろう。すでに聞き慣れた言葉になりつつある。2023年のESG投資の代表的な分野であることは確実でもある。しかし、その一方で、この生物多様性という漠としたものにどう向き合うかははっきりしない。最近の取り組みを紹介しながら、生物多様性の投資機会を考えてみよう。
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2023年6月28日
シリコンバレーバンク破綻が照らすバーゼルの彼方
野崎浩成 東洋大学 教授
CFA Institute(米国アナリスト協会)で財務報告部門を率いるサンディ・ピーターズ氏が「The SVB Collapse: FASB Should Eliminate “Hide-Till-Maturity” Accounting」というコラムを書いている。満期保有目的有価証券(Held-To-Maturity Securities = HTM Securities)を揶揄し「満期まで隠す」とした機知に富んだ表現である。この期に及んでは、Held-Till-Muddle(混乱)やHeld-Till-Malfunction(故障)などを充ててもよいかもしれない。
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2023年6月21日
最悪のデフォルト・ユニゾ社債の教訓
森本学 日本証券業協会 副会長
ユニゾHDの破綻劇について、報道では、メインバンクのみずほ銀行が早逃げする一方地銀が逃げ遅れたという見方や、元社長の個人的怨念などに関心が集まっている。しかし、本件の最大の被害者はユニゾ債の保有者であり、それら社債権者が不本意な経過により多くの損失を負担させられたところに、この破綻劇の特異性がある。本稿では、ユニゾ債のデフォルトへの過程を批判的に検証するとともに、わが国において低格付け債の信頼性を回復するためにどの様な改善策が求められるか、について私見を述べることとしたい。
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2023年6月7日
TOB・大量保有報告制度の見直しに向けて
大崎貞和 野村総合研究所 主席研究員
2021年から22年にかけて敵対的企業買収の試みと対象会社による買収防衛策の導入・発動をめぐる法的紛争が相次いだことなどを背景に、金融審議会でTOB・大量保有報告制度の見直しが検討されることになった。この見直しでは、①企業買収ルールに「世界標準」は存在しないこと、②TOB・大量保有報告制度と買収防衛策規制を総体でとらえて攻守のバランスを図ること、③買収者となり得るのは投資ファンド等だけでなく事業会社でもあること、に留意した検討が求められる。
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2023年4月26日
新NISAの何が問題なのか
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
岸田文雄内閣の目玉政策の1つとして、現行の少額投資非課税制度(NISA)が大幅拡充され、2024年から新NISAとしてスタートすることになった。しかし、筆者はこの優遇税制には賛成できない。国民の資産運用の選択に対して中立ではないうえに、細かな制度設計がまずく、選択できる商品の幅が狭かったり、特定の業者だけがメリットを享受できたりする仕組みになっているからだ。
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2023年4月12日
PBR1倍割れの上場会社への対応について
池田唯一 大和総研 常務理事
日本の上場会社の約半数がPBR(株価純資産倍率)1倍割れとなっている状況を受け、東京証券取引所(東証)は、継続的にPBRが1倍を割っている上場会社に対して、改善に向けた方針などの開示を強く要請していくとの方針を示している。日本企業のPBRが欧米企業のそれに比べて見劣りがするとされる中で、上場会社のPBRの改善を図りたいという東証の意図は分かるが、果たして今回の措置は有効にその機能を発揮するのか。PBRは、以前から言われてきたROE(自己資本利益率)とは異なり、上場会社が自助努力で直接、コントロールできる指標ではない。また、一口にPBR1倍割れと言っても、そこには業種全体の置かれた状況や規制環境など様々な要因が絡み合っている。さらに、PBRは一定の会計ルールに従って計算された純資産額から導出される数字であり、1倍という水準に絶対的な意味を持たせることには慎重な判断が求められる。これらを踏まえ、今回の措置の有効性について検討を加える。
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2023年3月29日
今日の証券市場の論点―3.IPO制度(下)
森本学 日本証券業協会 副会長
(上)では、我が国のIPO制度が、過去の様々な出来事や指摘を受けて変遷してきたことを振り返った。(下)では、今回のIPO制度を巡る議論・検討のどこが、従来の繰り返しでは無い新しい点なのかを論じた上で、今後のIPO市場のあるべき姿について私見を述べることとしたい。
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2023年3月22日
シリコンバレー銀から学ぶこと
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
米欧で銀行の経営危機が相次いで表面化し、発端となった米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻は、話題としては後景に退きつつあるが、米国のスタートアップエコシステムを支えてきたSVBのビジネスモデルに大きな問題があったわけではない。破綻の要因を探ると、過去3年、金融環境が緩和から引き締めへ急激に転換するなかで、スタートアップの資金調達環境が大きく変わり、銀行のALM(資産・負債の総合管理)上の判断ミスを招いていたことがわかる。経営者保証に頼らない融資への模索が続く日本の銀行も、SVBの失敗からだけではなく、ユニークなビジネスモデルから学べることは多いのではないだろうか。
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