二次利用について
2023年4月12日
PBR1倍割れの上場会社への対応について
池田唯一 大和総研 常務理事
日本の上場会社の約半数がPBR(株価純資産倍率)1倍割れとなっている状況を受け、東京証券取引所(東証)は、継続的にPBRが1倍を割っている上場会社に対して、改善に向けた方針などの開示を強く要請していくとの方針を示している。日本企業のPBRが欧米企業のそれに比べて見劣りがするとされる中で、上場会社のPBRの改善を図りたいという東証の意図は分かるが、果たして今回の措置は有効にその機能を発揮するのか。PBRは、以前から言われてきたROE(自己資本利益率)とは異なり、上場会社が自助努力で直接、コントロールできる指標ではない。また、一口にPBR1倍割れと言っても、そこには業種全体の置かれた状況や規制環境など様々な要因が絡み合っている。さらに、PBRは一定の会計ルールに従って計算された純資産額から導出される数字であり、1倍という水準に絶対的な意味を持たせることには慎重な判断が求められる。これらを踏まえ、今回の措置の有効性について検討を加える。
カテゴリー 金融資本市場
2023年3月29日
今日の証券市場の論点―3.IPO制度(下)
森本学 日本証券業協会 副会長
(上)では、我が国のIPO制度が、過去の様々な出来事や指摘を受けて変遷してきたことを振り返った。(下)では、今回のIPO制度を巡る議論・検討のどこが、従来の繰り返しでは無い新しい点なのかを論じた上で、今後のIPO市場のあるべき姿について私見を述べることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場
2023年3月22日
シリコンバレー銀から学ぶこと
前田昌孝 マーケットエッセンシャル 主筆
米欧で銀行の経営危機が相次いで表面化し、発端となった米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻は、話題としては後景に退きつつあるが、米国のスタートアップエコシステムを支えてきたSVBのビジネスモデルに大きな問題があったわけではない。破綻の要因を探ると、過去3年、金融環境が緩和から引き締めへ急激に転換するなかで、スタートアップの資金調達環境が大きく変わり、銀行のALM(資産・負債の総合管理)上の判断ミスを招いていたことがわかる。経営者保証に頼らない融資への模索が続く日本の銀行も、SVBの失敗からだけではなく、ユニークなビジネスモデルから学べることは多いのではないだろうか。
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2023年3月8日
今日の証券市場の論点―3.IPO制度(上)
森本学 日本証券業協会 副会長
一昨年夏、政府はその成長戦略において「公開価格の設定が低すぎるため、スタートアップの資金調達が不十分になっている」として、公開価格設定プロセスの見直しを求めた。これを受けて日証協のWGで検討が行われ、そこで取りまとめられた改善策が、現在、順次実施に移されている。 この公開価格の設定方法を含むIPO制度については、過去何度も問題点が指摘され制度改正が行われてきたが、一向に本質的解決に至らず、似たような議論・検討が繰り返されてきた様に見える。果たして今回は違うのだろうか? 筆者は、この問題の発端となったリクルート事件当時、偶々事案処理を担当していた。本稿では、その個人的体験を含め、IPO制度に関するこれまでの議論・検討を振り返るとともに、今回の改善策及び今後の目指すべき方向性について私見を述べることとしたい。
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2023年2月8日
劣化する日本企業の競争力
中島厚志 新潟県立大学国際経済学部 教授
他の主要先進国とは逆に、日本の輸出物価の上昇率は輸入物価上昇率を長年下回っており、売値を上げる付加価値創造力やイノベーションが欧米主要国より乏しいように見える。背景には国内での設備投資の不足があり、人材投資の不足もイノベーション力不足に寄与している。20年あまりのモノとヒトへの投資不足を挽回するのは容易ではないが、エネルギー危機を機にオイルショック時の日本のように産業構造転換を強力に推進しているEUに倣い、日本も円安と経済安全保障強化につながる地政学的リスクの高まりを好機として、最大限ヒトとモノへの投資に傾注することがイノベーション力と産業競争力挽回のバネとなる。
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2022年11月2日
わが国金融資本市場の地盤低下を打破する3つの視点
内田和人 エムエスティ保険サービス株式会社 代表取締役会長
リーマン危機においては、わが国金融資本市場の頑健性が際立った。それ以前に2度の金融危機(1997年~98年、2003年)を経て既に金融機関の破綻処理が進み、財務の健全性とセイフティネットが十分に担保されていたからである。しかし、その後の金融資本市場の歩みを欧米と比較すると、金融技術の発展や市場整備の強化という点で劣後し、とりわけポストコロナ禍のレジリエンス(回復力)を主要な金融プロダクトのレベニュープール(市場規模)でみると著しく低下している。わが国金融資本市場の地盤低下を打破する3つの視点として、①非上場株式取引の活性化、②社債市場の機能強化、③デリバティブ取引拡大に向けた環境整備、を取り上げ私見を述べたい。
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2022年10月19日
迫られる金融政策の転換
奥村洋彦 学習院大学 名誉教授
現行の超金融緩和政策は、当初の目標を達成出来ないまま10年が経過しようとしている。長期にわたる市場への人為的介入は、既に指摘がなされているように多くの副作用を発生させているが、とりわけ、政府債務残高の突出する膨張を招来する等資源配分を乱し、大幅な円安が日本経済の国際的プレゼンスを急落させる等異常さが目立ってきている。その拠って来る根因は、依拠するモデルが「リスク」だけを採り入れ「不確実性」を採り入れない現実に適合しないものであり、また、預金金利をゼロにしたままでの物価上昇が、出し手の個人の実質預金残高を減少させ、借り手の政府へ、数十兆円もの巨額の所得移転を生じさせていることにある。市場メカニズムの再生に向け政策転換が急務となってきている。
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2022年8月23日
リスクマネジメントと市場インフラ
中島敬雄 元DIAMアセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)株式会社 代表取締役社長
世界は40年振りに本格的なインフレ局面を迎えようとしている。 銀行のALMにとって、インフレに起因する金利上昇は最も大事なリスクマネジメントの場面だ。この40年の間に、”金融の市場化”は急速に進み、市場の規模は拡大し、質も著しく向上した。その中にあって、銀行は、自らのリスク・プロファイルを巧みに変化させることにより、新しい市場環境に適合する術(すべ)を身につけてきたのである
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2022年8月9日
今日の証券市場の論点―2.社債管理(下)
森本学 日本証券業協会 副会長
(上)では、我が国独特な社債受託制度と起債調整が、どのような背景と経緯で形成されてきたかをみた。(下)では、それらの制度が戦後も長らく続いた後、新しい社債管理制度が導入されたものの、それは必ずしも社債市場において期待された役割を果たしていないことから、社債管理制度の今後のあるべき姿について私見を述べることとしたい。
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2022年7月26日
今日の証券市場の論点―2.社債管理(上)
森本学 日本証券業協会 副会長
日本の社債市場についてよく語られる「低格付け債が発行されない」、「個人向け債が少ない」という課題は、社債管理制度がうまく機能していないことが原因の一つとされている。それでは、この社債管理の制度・慣行はどのように形成され、いま社債市場全体に対してどのように作用しているのだろうか? 本稿では、日本の社債管理制度の創設、展開を振り返りつつ、上記のような問題へのインプリケーションを探ることとしたい。
カテゴリー 金融資本市場